賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの食文化研究所:第15回 女川編

 (『ツーリングGO!GO!』2003年10月号 所収)

 ホヤは三陸海岸を代表する珍味といっていい。

 その姿、形から、「海のパイナップル」ともいわれている。形容するのが難しいほどに独特の味のするホヤを食べると、「三陸海岸にやってきたなあ!」という強烈な実感が味わえるし、この味を一度、経験すると、もう2度と忘れられないものになる。

「ホヤを食べたい!」

 という一心で、三陸海岸までバイクを走らせたくなるほどだ。

 7月から8月にかけてがホヤの旬。

 この季節はうま味と甘味がぐっと増す。

 ホヤというと独特の味とにおいに拒絶反応を示す人も多いが、大半の人は鮮度の落ちたホヤを食べているからだ。とれたのホヤの味にはそれほどクセはないし、においもそれほど強くはない。

 それどころか、ほのかに漂う磯の香りがたまらない。

 ホヤは三陸海岸の海でとれたばかりのものを食べるのに限るのだ。

 東京からスズキDR-Z400Sを走らせ、旬のホヤを求めて三陸海岸へ。

 目的地は三陸リアス式海岸玄関口の女川だ。東北道の仙台南ICと仙台南部道路が接続し、さらに仙台東部道路に直結している三陸道が石巻河南ICまで延びているので、女川はずいぶんと行きやすくなった。

 石巻から国道398号で女川へ。

 市街地を通りすぎたところにある「崎山展望台」に立ち、奥深くまで切れ込んだ女川湾とその一番奥に位置する女川漁港、その背後に広がる女川の市街地を一望する。

 いかにも「三陸のリアス式海岸」といった風景だ。

 三陸のリアス式海岸はここよりはじまる。

 この風景をしっかりと目に焼き付けたところで女川漁港へ。

 漁港前の「マリンパル女川」の海鮮市場を歩く。水揚げされたばかりのホヤが山盛りにされ、さらにホヤの加工品の「蒸しほや」や「ほやの塩辛」も見られた。

 さっそくホヤを賞味しようと2階のレストラン「古母里」へ。

 ここにはホヤのメニューが3品あった。ホヤ酢とホヤサラダ、それとホヤのスパゲティだ。これら3品のホヤ料理を食べた。

 生のホヤを酢につけて食べる「ホヤ酢」はシンプルだが、これがホヤを味わうのには一番いい。鼻にツーンと抜けるようなホヤ特有の風味は揮発性の微量成分の不飽和アルコールによるものだという。

 その味覚というのは苦味とも違うし、甘味や辛味、酸味、塩辛味とも違うもの。

「五味」

 では、表現できない味。

 口の中に残る味覚は、

「これがホヤですよ!」

 といわんばかりのもので、もう「ホヤ味」というしかない。

 日本にはこういう味もある!