賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

日本列島岬めぐり:第14回 襟裳岬(えりもみさき・北海道)

 (共同通信配信 1990年)

 原始のにおいをとどめる日高山脈が、北太平洋に落ち込む地点が襟裳岬だ。

 北の狩勝峠から南の襟裳岬に到る120キロもの長大な日高山脈は、氷河地形のカールをいくつも残し、深い原生林に覆われ、北海道でも最も人里離れたところのなっている。 襟裳岬には苫小牧から国道235号→国道336号で向かった。

 日高の海岸を走り、JR日高線の終着、様似駅に立ち寄った。その先で国道を離れ、襟裳岬へ。

 岬周辺の台地に樹木は見られない。まるで敷つめられたかのような笹が地面を這い、笹原の中を一筋のアスファルト道路が岬へと延びている。

 もともとこのあたりはカシワやミズナラの茂る樹林地帯だったということだが、長年の伐採で荒野に変り、強風に舞って砂が飛ぶようになったという。いま盛んに「飛砂防止保安林」の植林がおこなわれている。

 襟裳岬の「エリモ」は、岬を意味するアイヌ語の「エンルム」に由来するという。前回(※地球岬の項)紹介した絵柄岬と同じだ。襟裳岬も絵柄岬も岬の同義語を重ねたもので「岬岬」になる。 襟裳岬の駐車場にバイクを停め、岬の突端まで遊歩道を歩いていく。明治22年に設置された襟裳灯台の前を通る。毎年、5月から8月にかけて海霧に悩まされる道東の海らしく、灯台には霧笛が備えつけられている。

 襟裳岬突端の展望台に立った。

 そこからさらに沖合いまで、岩礁が点々とつづいている。その風景は、まさに「日高山脈、ここに尽きる」というようなものだった。

 北太平洋の荒波が岩礁にぶつかり、白い波が砕け散っている。この沖合いの岩礁地帯はゼニガタアザラシの生息地で、11月から4月にかけて見られるという。

 ひと晩、岬前の旅館に泊まった。強風が夜通し吹き荒れ、二重窓はガタガタと激しく震えつづけた。日高山脈にさえぎられた気流が襟裳岬に回りこんでくるため、一年中、強風が吹き荒れるという。

 風速15メートル以上の日が年間200日を超え、風速30メートル、40メートルの日も珍しくないという。襟裳岬は日本でも一番、二番の「風の岬」だ。