賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

秘湯めぐりの峠越え:第7回目 仙岩峠編(秋田・岩手)

仙岩峠越え

 ひと晩、泊まった乳頭温泉郷の孫六温泉を出発。まあまあの天気で日が差している。

 国道341号に下り、田沢湖町の中心、生保内へ。JR田沢湖駅前の喫茶店で久しぶりのような気がするコーヒーを飲む。もう一杯、おかわりをし、国道46号で秋田・岩手県境の仙岩峠に向かった。

 峠下にある仙岩資料館(入館無料)を見学。峠を貫く仙岩トンネル完成までのビデオが興味深かった。今では何ということなしに走り抜けてしまう峠のトンネルだが、その完成までにはさまざまな苦労があった。

 仙岩峠は標高836メートル。秋田県側の仙北郡と岩手県側の岩手郡の両郡名をとっての仙岩峠だが、その571メートル地点がトンネルの入口になっている。峠の頂上よりもはるかに低い地点を貫くトンネルなので、その完成とともに国道46号は、一年中、通行可となった。

 昭和51年の仙岩トンネルの完成以前、国道46号は、仙岩峠の北の国見峠を越えていた。だが、積雪が3、4メートルにも達する豪雪の峠なので、冬期間は閉鎖され、通行できなかった。奥羽連絡のこの重要な峠道が一年中通れるようになるのは、東北人の悲願だった。

 そのような背景を知った上で、峠道を登り、仙岩峠のトンネルに入っていくと、新たな思いを感じながら走ることができた。

 仙岩峠のトンネルを走り抜け、岩手県側に入ると、天気はガラリと変わった。なんと、ザーザー降りの雨が降っているではないか‥‥。雨をついての、最後の行程、岩手県側の温泉めぐりとなった。

岩手県内の温泉めぐり

 国道46号を左に折れ、旧道の国見峠を目指して登っていく。

 峠近くにある国見温泉が第1湯目。

「石塚旅館」(入浴料300円)の内風呂と混浴の露天風呂に入ったが、きれいな緑色の湯。ここは日本でも一番の緑湯だ。

 国道46号に戻ると、雫石盆地の雫石へと下っていく。

 JR田沢湖線の雫石駅前に出、案内板で第2湯目の雫石温泉の位置を確認する。

 国道46号と分かれ、北へと走り、田園地帯の中にポツンとある一軒宿「ホテルしずくいし」(入浴料600円)の湯に入った。近代的な設備の温泉ホテル。奥羽山脈が雫石盆地に落ちる山際にある。

 第3湯目は玄武温泉。山あいの静かな温泉地。ここには5県の温泉宿があるが、そのうち「いさみや旅館」(入浴料500円)の湯に入った。湯から上がると、葛根田川の川岸にある天然記念物の玄武洞を見た。玄武岩の柱状節理が見事だ。

 玄武温泉からは葛根田川に沿って走り、第4湯目の滝ノ上温泉へ。ここは最奥の秘湯。峡谷のあちらこちらから蒸気が吹き出している。大規模な地熱発電所の建設工事が進んでいる。秋田県側の乳頭温泉郷とは奥羽山脈の乳頭山をはさんでちょうど反対側になる。そんな滝ノ上温泉では、「滝峡荘」(入浴料350円)の湯に入った。山小屋風の宿だ。

 滝ノ上温泉から玄武温泉に戻ると、今度は岩手山方向に登り、第5湯目の網張温泉へ。「岩手山麓国民休暇村」(入浴料500円)の湯に入る。この温泉の歴史は古く、和銅年間(708年~715年)に発見されたという。

 網張温泉を出発するころには、まるでぼくをあざ笑うかのように、雨足はますます速くなる。豪雨をついて走り、いよいよ最後の温泉、第6湯目の岩手山温泉だ。

 岩手山東南麓、標高370メートル地点、岩手山柳沢口の登り口にある岩手山温泉「白百合荘」(入浴料250円)の湯に入った。無色透明の、若干、塩味のある食塩泉の湯。

33湯の全湯制覇!

 岩手山温泉の湯につかりながら、ガッツポーズ。これで見返峠編、大場谷地峠編、そしてこの仙岩峠編を合わせ、“日本一の秘湯地帯”にある全33湯に入った。

 岩手山温泉の湯から上がると、すぐ近くにある岩手山神社に行き“日本一の秘湯地帯”の全33湯完全湯覇達成のお礼参拝をするのだった。

 それにしても驚きだったのは、“日本一の秘湯地帯”の湯の入りやすさだ。

 第1湯目の焼走り温泉から第33湯目の岩手山温泉まで、入浴を断られたことは一度もなかった。これは、驚異的なことといっていい。

 意気揚々とした気分で滝沢分れまで下り、国道4号で盛岡に戻った。

「盛岡→盛岡」の全行程は451キロ。

 だが、その間に33湯もの温泉に入ったので、1000キロも2000キロも走ったかのような錯覚にとらわれた。

 盛岡では、JR盛岡駅前の「東家」で名物のわんこそばを食べた。結果は131杯。パンパンに膨れ上がった腹をかかえて盛岡を後にし、東北道を一路、東京へと夜通しで走るのだった。