賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

甲武国境の山村・西原に「食」を訪ねて(その24)

 (『あるくみるきく』1986年10月号 所収)

ジャガイモの詩

 次にジャガイモの詩である。

「せいだは白く 丸い顔」の「せいだ」はジャガイモのこと。江戸時代中期、安永~天明年間(1772年~1789年)に、甲州各地の代官を歴任した中井清太夫の名前に由来している。中井清太夫は後世にまで語り継がれるような名代官だった。日本には桃山時代に伝わったとされるジャガイモだが、それを甲州の各地に広めたのが中井清太夫なのだという。そのおかげで甲州人は、天明の大飢饉を乗り越えることができたといわれている。 西原の人たちはよく、「せいだのたまじの煮っころがし」をつくる。

 たまじとは小さなもの、ころころとしたものといった意味で、「せいだのたまじ」は小粒のジャガイモを意味している。それを味噌で炊き上げたものが「せいだのたまじの煮っころがし」。ジャガイモの芯にまで味噌の味がしみ込んでいる。

 ジャガイモはサトイモに比べると、短時間でゆであがる。底の深い大釜をカマドにかけて、昼食後にゆではじめると、午後のおやつには間にあう。

 西原では間食としてのおやつをオコジュウといっているが、ジャガイモはオコジュウには最適で、ゆでたジャガイモにネギミソをつけて食べる。

 残ったジャガイモはサトイモと同じように、てっきで焼いた。

「まぶした塩が こんがりと」

 とあるように、塩をまぶして焼いた。