賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

日本列島岬めぐり(9) 尻屋崎(しりやざき・青森)

 (共同通信配信 1990年)

 斧そっくりの形をした下北半島の東北端が尻屋崎。本州の東北端でもある。

 津軽海峡に沿ってバイクを走らせ尻屋崎に近づくと、石灰岩を採掘する鉱山前を通る。背後にそびえる標高400メートルの桑畑山は石灰岩の宝庫。埋蔵量は数億トンと推定され、隣接するセメント工場や港に送られていく。

 さて、尻屋崎だが、入口にある遮断機のボタンを押して中に入っていく。この遮断機は岬周辺の草地に放牧されている牛や馬のためにある。

 尻屋崎で放牧されている骨太の馬は「寒立馬」と呼ばれている。下北の厳しい自然の中で育っているだけに抜群の耐久力。雌馬を残し、雄馬は食肉用として市場に出される。

 松林を走り抜けて海岸に出ると、白っぽい石灰岩の道が岬突端の灯台へと続いている。岬には「本州最涯の地」碑が立っているが、そこから見る尻屋崎の灯台は、日本に数ある灯台の中でも、一番絵になる(と思っている)。

 崖っぷちに座り、海を見た。

 左手には下北半島の山々が連なり、重なり合い、そのままストンと海に落ちている。

 目の向きを変えると、北海道の山影が津軽海峡の水平線上に霞んで見える。その一番右が恵山岬になる。

 岬に近い尻屋の漁村に行くと、あちこちでコンブを干していた。

 コンブを切り刻んだようなものを干しているオバアチャンに聞くと、それはコンブの根の「ネコブ」だという。ひとつもらい、口に入れたが、えらく固い。

「これはね、血圧にいいといって、けっこうな値段で売れるものなのよ。それと、おそばのダシを取るのはネコブが一番ね」

 オバアチャンの話では長距離トラックの運転手にはネコブの愛用者が多くいるという。ネコブをクチャクチャかみ続けるのが、何よりもの眠気ざましになるというのだ。私も口の中でやわらかくなったネコブをかみながらバイクを走らせ、尻屋崎をあとにした。