韓国食べ歩き:第8回
(『あるくみるきく』1987年1月号 所収)
臓物と魚醤油
南大門市場内には、ブタの臓物を食べさせる屋台が並んでいる。
私たちは好奇心にかられ、さっそく味わってみることにした。
とはいっても、臓物が目の前にズラリと並んでいるのはちょっと異様な光景…。最初は目を覆ってしまうような気持ちの悪さを感じた。
だがボイルした臓物を店のおばさんが目の前で薄切りにしてくれ、それをアミの塩辛の汁(魚醤油)につけて食べはじめると、そのような気持ちの悪さは吹っ飛び、次々に箸をのばした。うまいのだ。
意外にさっぱりとした味わいの臓物は、塩味がきいて、コクのある魚醤油によく合うのだった。
ところでこの魚醤油だが、日本では秋田のショッツルや能登のイシル、伊豆七島のクサヤづくりに使う塩汁のショッチルが残っているぐらいでしかない。ところが東南アジアに目を向けると、タイのナンプラー、ラオスのナンパー、ベトナムのヌクナム、カンボジアのトゥクトレー…と、それぞれの国ではきわめて重要な調味料として使われている。
魚醤油は魚介類を塩漬けにしたときに、にじみ出てくる塩汁のこと。
秋田のショッツルはハタハタからつくられるが、「ショッツル」は「塩汁」からきている。能登のイシルはイワシやイカなどからつくられるが、「イシル」は「魚汁」からきている。タイのナンプラーも同様で、ナンは水を、プラーは魚を意味しているが、「魚水」からきている。
このような魚醤油を調味料として使っているのは世界でも限られたエリアで、日本、朝鮮半島、中国南部、さらには東南アジアへとつづく一帯だ。この「魚醤油圏」では塩辛も食べられる。塩辛と魚醤油はセットになっている。