賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

シルクロード横断:第31回 ビシュケク→タラズ

 キルギスの首都ビシュケク。早朝の町を歩く。さわやかな透き通る空気。朝日を浴びた天山山脈の雪山が目に残る。北緯43度の町で日本でいえば札幌といったところか。今回の「シルクロード横断」ルートでは、このあたりが一番、北になる。

 ビシュケクの人口は約100万人。キルギスの人口が500万人ほどなので、全人口の2割近くが首都に集中している。とはいっても人口が密集しているといった感じはなく、ゆったりとした広々とした町並み。80もの民族が住むというキルギスだが、キルギス人が6割以上を占め、それにウズベク人、ロシア人、ウクライナ人がつづいている。

 中国系ホテル「エルドラド」のレストランで朝食。朝粥や焼きそばを食べたが、中国の味に何かものすごいなつかしさを感じてしまう。中国を離れたばかりだというのに…。

 2006年9月17日9時、ビシュケクを出発。100キロほど西に走り、11時にはカザフスタンとの国境に到着。キルギスを出国し、カザフスタンに入国するまでに2時間ほどかかった。

 旧ソ連の中央アジア5ヵ国の中では最大の面積を誇るカザフスタンに入り、天山山脈北麓の道を行く。一直線の舗装路。左手には天山山脈の山並みがはてしなくつづき、山麓はビート(砂糖大根)畑になっている。右手にはカザフスタンの大平原が際限なく広がり、広大な牧草地になっている。スズキDR-Z400Sを走らせながら見る左右の風景のあまりの違いに、ただただ驚かされてしまう。片や大山脈、片や大平原!

 昼食がよかった。バイクを路肩に停め、道路沿いの樹林の中にブルーシートを広げ、ランチボックスの昼食。食べおわるとゴロンと横になり、30分ほどの昼寝。これがすご~く気持ちいいのだ。目がさめると、まるで夢の中をさまよっているかのような気分を味わえる。それまで見つづけてきた大山脈と大平原の風景が新鮮に見え、あらためて感動してしまうのだ。

 天山山脈と大平原を左右に見ながら走りつづけ、夕方、タラズに着いた。ビシュケクから285キロ。ここはシルクロードの要衝の地。751年の唐軍とアラブ軍が戦った「タラスの戦い」の舞台、タラス川河畔の町だ。キルギスとの国境に近く、キルギス側にもタラスの町はある。カザフスタンは「TARAZ」、キルギスは「TALAS」。

 タラズでは「ジャンヒル ホテル」に泊まった。プラプラと町歩きをしたあと、ホテル近くのレストランで夕食。それがまさに東西の接点を感じさせるものだった。まずは羊肉とジャガイモのスープの「ショルボ」を飲む。ボルシチ風スープの上にはロシア人の大好きな香辛料のウイキョウが浮いている。この「ショルボ」という名前はアラブのスープの「ショルバ」からきている。

 次に水餃子の「マントウ」を食べる。これにもウイキョウがのっている。「マントウ」というのは中国の「饅頭」からきているが、餃子をも「マントウ」といっているのが興味深かった。

 そしてテーブルのわきで焼いている「カバブー」を食べた。羊肉の串焼きでこれは西アジアの食べ物。そんな夕食を食べていると、「自分は今、シルクロードの真っ只中にいる!」という気分になる。中央アジアはまさに東アジアと西アジアの文化が激突する「アジアの十字路」なのだ。

早朝のビシュケクの町並み

早朝のビシュケクの町並み

カザフスタンに入る

カザフスタンに入る

左手には天山山脈の山並み

左手には天山山脈の山並み

夕食のスープ「ショルボ」

夕食のスープ「ショルボ」