賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリが選ぶ「ニッポン郷土料理」(13)北海道編

249、石狩鍋(北海道)

北海道の食文化をひとことで言い切ってしまうと“鮭食文化”ということになる。それだけに北海道のサケ料理の種類は多彩で、きわめて発達している。サケはアイヌ語で“カムイ・チェプ(神の魚)”。北海道でのサケの重要性を見事に表した言葉ではないか。

さて数ある北海道のサケ料理の中でも王様級なのがこの石狩鍋。石狩川河口の石狩からおこったサケ料理だという。ぶつ切りにしたサケと豆腐、コンニャク、野菜類などを入れた味噌味の鍋料理で、体が芯から暖まる。

250、三平汁(北海道)

青森から函館に夜中のフェリーで渡り、夜明けの函館の朝市を歩き、市場内の食堂で食事するのがぼくの北海道ツーリングの定番のようなもの。そのとき一番、食べたくなるのがこの三平汁だ。湯気のたつ三平汁をフーフーいってすすっていると、「津軽海峡を渡って北海道にやって来たゼ!」という気分になるのだ。

三平汁はサケやニシン、タラなどを入れた汁だが、なんたってサケがうまい。冬、地吹雪に吹かれたときに食べた酒粕入りの三平汁には生き返るような思いだった。

251、ルイベ(北海道)

北海道の先住民アイヌの食文化の伝統を色濃く受け継いだのが、このルイベだ。ルイベというのは、凍らした食べ物を意味するアイヌ語で、タラやエゾジカのルイベもあるが、ツーリングの途中で我々が口にするルイベといえばサケになる。

生のサケを三枚におろし、皮をとり、4、5ミリぐらいの厚さに切ったものを凍らせ、それをワサビ醤油につけて食べる。シャキシャキッとした歯ごたえと、トロッとした脂の乗った身のうまさがたまらない。寒さの厳しい北海道らしい食べ物だ。

252、イクラ丼(北海道)

北海道ツーリングではきわめてなじみの深いイクラ丼だが、このイクラというのはアイヌ語ではなく、魚の卵を意味するロシア語なのだ。そのロシア語がサケやマスの卵の意味ですっかり定着したところに、北海道とロシアの距離の近さを感じさせる。イクラは生の筋子をばらして塩漬けにしたもの。イクラ丼というのは、それをあたたかな丼飯の上にのせただけの素朴な食べ方だが、北海道の食の素材のよさとあいまって、これがすこぶるうまいのだ。

253、めふん(北海道)

北海道料理の中で一番の酒の肴といったら、このめふんだ。雄のサケの背腸(臓物を取り出したあとで取る背骨に沿ってついている血わた)を原料にした塩辛で、高級品になると3年近くも寝かせるという。高級品のめふんには、舌の上でとろけるような熟成された味がある。めふんは生ビールにもワインにも日本酒にも‥‥と、何にでも合う。すごい酒の肴だ。

ぼくが知る限り、このサケの“めふん”とアユの腹わたからつくる“うるか”は、日本の塩辛の両横綱といったところだ。

254、ニシン漬け(北海道)

かつての北海道漁業の中心はニシン漁だった、今でも日本海側の小樽や江差、寿都などに残る網元の“鰊御殿”を見れば、ニシン漁がいかにすごかったかよくわかる。

「秋味」のサケに対してニシンは「春告魚」で、毎春、日本海の海岸に群れをなして押し寄せた。そのニシンも昭和30年代以降、パッタリと来なくなったが、ニシン料理の伝統は残った。ニシン漬けもそのひとつ。桶に身欠きニシンとダイコン、キャベツ、ニンジン、赤唐辛子を入れ、塩と麹で漬け込んだものである。

255、イカそうめん(北海道)

ぼくが初めて函館の朝市の食堂でイカそうめんを食べたのは、今から20数年前のことだが、当時はまだそれほど知られてはいなかった。津軽海峡はスルメイカの好漁場。そこでとれた生きているイカを食堂のおばちゃんは、ぼくの目の前で鮮やかな包丁さばくでトントントンと細切りにしてくれた。それを丼にゴソッと盛ってくれた。おろしショガを添えたつけ汁につけ、そうめんのようにツルツルッと食べたときは、「おー、日本にはこういう食べ方があるのか!」と、感激したものだ。それがあれよあれよというまに名物料理になっていった。

256、イカめし(北海道)

JR函館本線の森駅の駅弁として全国的に有名になったが、函館から北へ、国道5号を走りだしたらちょっと森駅に寄り道し、このイカ飯弁当を食べてみたらいい。イカ飯は北海道のイカ料理の代表的なもの。足を引き抜き、よく洗って包丁目を入れた身に、洗った米を詰める。つま楊枝で口をふさぎ、醤油、味醂で味つけしただし汁の中で1時間ほど煮込み、出来上がる。

このイカの中に詰める米がイカめしの味の決め手だそうで、糯米と粳米を混ぜる割合が、つくり手の秘伝になっている。

257、松前漬け(北海道)

今ではすっかり全国区的になった松前漬けは、北海道とは何ら関係のない我がカソリ家の正月料理にも欠かせないものになっている。もとはといえば、道南の漁師の奥さんたちが冬場のおかずとして自家用でつくっていたものだという。

スルメとコンブを千切りにし、それに数の子のみずこ(型くずれした数の子のこと)を加え、醤油、味醂、酒で味を調えたものである。スルメとコンブのだしが混じり合い、絶妙の味になる。ついつい、つまみ食いをしたくなる味なのである。

258、ホッキとホタテの刺身(北海道)

函館から稚内への北海道縦断を走り終え、稚内駅近くの「網元」という郷土料理店に入った。ここで食べたホッキとホタテの刺身はすこぶるうまかった。ホッキは日本海側の抜海で取れたもの、ホタテはオホーツク海側の猿仏でとれたものだという。ともに天然もの。

湯に通していないホッキは自然のままの色合い。ホタテは養殖もの特有のクニャッとしたやわらかさではなく、シコシコッとした歯ごたえ。店の主人はいった。「どうです、これが地元産の天然ものの味ですよ」

259、ホッケの開き(北海道)

北海道ツーリングで一番よく食べるのが、このホッケの開き。焼き魚にするのだが、豪快な北海道の食文化を象徴するかのように、たいてい皿からはみだすくらいの大きなホッケが出てくる。これがまた、うまいんだ! たっぷりと脂がのっている。とくに身と皮の間の脂分がこたえられないいい味。焼き方が上手だと皮も骨もまるごと食べられる。焼き魚定食でホッケがでると、飯をお替わりしたくなるほど。ホッケは北海道から本州北部の北海に生息する魚。まさに北の味である。

260、カスベの干物(北海道)

北海道の漁村でよく目にする光景は、家の軒下や干し場にぶらさがったカスベである。カスベというのはエイのこと。このカスベの干物は、タラの干物と肩を並べるほどの絶好の酒の肴。塩をして硬く干したカスベの干物を金槌でたたいてそのまま食べる。

このカスベは煮こごりにしても食べる。熱いご飯にカスベの煮こごりはよく合う。ぶつ切りにした生のカスベを湯に通し、それをだし汁に入れ、醤油、味醂で味つけし、グツグツ煮込み、それを冷蔵庫に入れておけば煮こごりができる。

261、かにめし(北海道)

北海道のカニといえば、毛ガニ、タラバガニ、花咲ガニの3種がすぐに頭に浮かぶ。北海道ツーリングの大きな魅力は、いたるところでうまいカニに出会えることだ。

これら3種のカニのうち戦前からよく知られていたのはタラバガニで、毛ガニがよく食べられるようになったのは戦後のこと。函館本線の長万部駅でゆでた毛ガニを売出すと、これが大当たりし、一躍有名になった。そのような伝統をひきついだのが長万部駅の名物「かにめし」弁当。駅前の「かにめし本舗」で買える。

262、鉄砲汁(北海道)

花咲ガニの本場は根室に近い花咲漁港。漁港の近くでは、とれたての花咲ガニをさっとゆでたものを売っている。これが最高のうまさ。店の奥さんがハサミで上手に甲羅や殻を切り裂き、食べやすくしてくれる。1匹まるごと、あっというまにむさぼり喰ってしまう。

この花咲ガニ入りの味噌汁が根室名物の鉄砲汁。丼の味噌汁の中には、ブツ切りにした花咲ガニがゴソッと入っている。味噌汁には花咲ガニのうまみがしみ出て、絶妙の味わい。この味の良さはほかのカニでは出ないという。

263、タラバのトトコ(北海道)

まさに北海道の珍味で、ラズベリーの実をさらに小さくしたような紫色の粒々。トトコというのは子供のことで、つまり、タラバガニの卵のことである。その粒々に塩をし、酒と醤油に漬けたものが“タラバのトトコ”なのである。この“タラバのトトコ”だが、粒状のものを“外子”と呼び、もうひとつ、ペースト状のものを“内子”といって呼び分けている。内子は塩辛にする。それを熱いご飯の上にのせて食べるとうまい! もちろん内子も外子も、酒の肴には最適だ。

264、ウニ丼(北海道)

ウニ丼とイクラ丼は北海道の“二大丼”。ともに北海道らしい豪快さで、丼飯の上にウニやイクラがドサッとのっている。食材の良さとボリュームの豊かさが、いかにも北海道の食べものらしいところだ。ぼくが積丹半島で食べたウニ丼は、とくにボリューム満点。ウニが丼からはみだしそうで、ご飯はまったく見えなかった。

そのほかのウニ料理というと焼きウニや、ラーメンにウニをのせたウニラーメン、また、練りウニや塩ウニなどの加工品があるが、なんたってウニ丼が一番だ。

265、ジンギスカン(北海道)

独特の兜のような形をした鉄鍋で、羊肉と野菜類を焼いて食べるジンギスカンは、これぞ北海道といったボリューム満点の料理だ。食べ方にしても、チマチマと焼くのではなく、ドサッと羊肉や野菜類を入れ、豪快に焼く。モンゴルの英雄チンギスハーンを彷彿とさせるいかにも大陸的な料理なのである。

ところで、この兜形の鉄鍋で羊肉を焼いて食べる料理がどうしてジンギスカンと呼ばれるようになったのかは、諸説があって定かではない。だが、日本人が名づけたことだけは間違いない。

266、ジャガイモのバター焼き(北海道)

北海道のジャガイモはとびきりうまい。それだから北海道ではジャガイモ料理が発達している。三平汁にしても主役のサケやニシンと脇役のジャガイモがピッタリとマッチしているから名物料理になるのだ。

数あるジャガイモ料理の中でもバター焼きは最高だ。北海道ならではのものといっていい。塩煮したジャガイモにバターをたっぷりつけただけの単純明快な料理なのだが、このホクホクしたジャガイモのバター焼きをフーフーいいいながら食べるうまさといったらない。

267、揚げイモとイモ餅(北海道)

北海道でイモといえばジャガイモのこと。揚げイモは男爵イモの皮をむき、3つに切って塩煮し、それに小麦粉をまぶして油で揚げたもの。国道230号の中山峠の「峠の揚げイモ」は有名だ。イモ餅はもともとは十勝の食べもので、塩煮したイモを一度冷し、すり鉢ですりつぶしたものに少々の澱粉を加え、餅状にする。それを形を整え、串刺しにし、こんがりと焼き揚げたものである。それを甘辛のタレにつけて食べる。オロフレ峠の峠の茶屋では揚げイモとイモ餅の両方を食べられる。

268、アスパラのバター炒め(北海道)

ジャガイモ、トウモロコシと並ぶ北海道の農産物の特産品といえばアスパラガスだ。羊諦山の山麓などで大規模につくられている。アスパラガスにはホワイトアスパラとグリーンアスパラがあるが、ホワイトアスパラはまだ土の中にある幼茎で、収穫されたその日のうちに缶詰にされる。グリーンアスパラは熱湯でさっと塩ゆでしてから料理する。

おひたし、白あえ、サラダなどのアスパラ料理があるが、北海道らしいのはバター炒めだ。バターで炒めただけの単純素朴な料理がうまい!

269、十勝ワイン(北海道)

十勝川を見下ろす池田町の高台に「ワイン城」がある。ここは十勝ワインのワイナリー。町営レストランの「十勝」もあって、ここで飲む十勝ワインは最高のうまさだ。

池田町でブドウ栽培が始まったのは40数年前のことでしかない。ところが冷涼なこの地でとれる酸味の強いブドウからはきわめて良質なワインがつくれることがわかり、十勝ワインは一躍、全国区的に脚光を浴びることになる。「ワイン城」ではちょっと無理して十勝牛のステーキに十勝ワインの赤でいこう!