賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

日本列島岬めぐり:第5回 塩屋崎(しおやざき・福島)

 (共同通信配信 1990年)

 太平洋岸の国道6号を北上。茨城県から福島県に入ったところで、小高い丘の上にある「勿来の関址」に寄っていく。ここは白河、念珠と並ぶ「奥州の三関」。「勿来」の2文字に、みちのくに入ったという実感が胸にこみあげてくる。

 広大な市域のいわき市では小名浜港から一つ、また一つと岬めぐりをした。

 最初は三崎。小名浜港の北側に突き出た岬で、北風を防ぐ天然の防波堤になっている。岬全体が三崎公園で、中央にはマリンタワーがそびえ、岬突端には潮見台の展望台が海上に延びている。

 この海上展望台は迫力満点。岬の断崖絶壁から一歩、足を踏外し、海上をフワフワ飛んでいるような気分にさせられる。

「ワタシ、怖い」

 わずかに揺れる海上展望台で、若い女性は彼氏にしがみついていた。

 つづいて竜ヶ崎、合磯岬に立ち、最後が塩屋崎。三崎から塩屋崎までは、ほぼ3キロの等間隔で岬が並んでいる。何とも規則正しい地形なのである。

 第三紀層の丘陵が波の浸食によって削られた塩屋崎は、下の駐車場から石段を登っていく。ハーハー、息が切れるほどの急傾斜。

 高さ50メートルほどの海食崖に囲まれた岬の上からの眺めは絶景で、南側の豊間漁港と合磯海岸、北側の薄磯海岸を一望。さらに灯台に登ると、それ以上の大展望が開ける。 岬の下には歌碑。

  春は二重に巻いた帯

  三重に巻いても余る秋

  暗らや崖なや塩屋の岬

 1989年に亡くなった美空ひばりの「みだれ髪」の歌詞が彫り刻まれている。永遠に変わらない「ひばり人気」を物語るかのように、歌碑の前には花束が供えられている。岬は「絵の世界」であるのと同時に、「歌の世界」でもある。