賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリが選ぶ「ニッポン郷土料理」(3)四国編

29、讃岐うどん(香川)

讃岐路を走ってすぐに目につくのは、“讃岐うどん”とか“手打ちうどん”、“饂飩屋”といったうどん屋の看板の多さだ。ここではそば屋の看板は、ほとんど見られない。讃岐はそれほどの“うどん大国”。香川県民のうどん消費量は断トツで日本一である。うどん屋に入ると、その種類の豊富さに驚かされる。釜あげうどんや湯だめ、しっぽくうどんなど、他地方ではあまり見ない種類のうどんもある。讃岐うどんの魅力は麺の腰の強さだ。

30、鯛の浜焼き(香川)

坂出沖は備讃瀬戸と呼ばれるが、そこは昔からの、瀬戸内海でも随一の鯛の好漁場。そこでとれる豊富な鯛と、瀬戸内の塩田でつくられる讃州塩と呼ばれる良質な塩が見事に合わさってできたのが“鯛の浜焼き”である。浜焼きというのは、煮えたぎる塩釜の中に、串刺しにした鯛を入れ、1、2時間ほどかけて蒸し焼きにする。それを塩釜から取り出し、風に当て、出来上がりとなる。備讃瀬戸対岸の岡山でも鯛の浜焼きは名物になっている。

31、まんばのけんちゃん(香川)

このユーモラスな名前を聞いただけでも、よーし、食べてみようじゃないかという気にさせられる。それが日本中を所狭しと駆けめぐる我らツーリングライダー気質というものだ。さて、“まんば”とは香川県特産の野菜で、高菜の一種といえよう。“けんちゃん”とはけんちんのこと。つまりは“まんばのけんちん”なのである。まんばと砕いた豆腐を炒め、瀬戸内産のいりこを加え、塩と醤油で味つけして煮込んだものである。

32、てっぱい(香川)

なんともおもしろい料理名だが、これは“鉄砲和え”からきていると思われる。つまり、“鮒の鉄砲和え”なのである。讃岐人の酒飲みには欠かせない酒の肴で、家庭でもつくられるし、料理屋や旅館でも酒の肴として出てくる。寒鮒の季節のものがとくに美味とされている。生きた鮒を塩と酢で締め、刺し身状に切り、その鮒とダイコンを酢で練った白味噌で和え、それに小口切りのネギとトウガラシを散らしたものである。

33、鯛めん(愛媛)

愛媛を代表する豪華郷土料理だ。鯛そうめんを略して鯛めんで、大皿に鯛の姿煮と一緒にそうめんを盛りつける。このそうめんというのは、松山特産の五色そうめん。伊万里焼きなどの大皿の色あいと鯛の桜色、五色そうめんの赤、青、黄、茶、白の色の取り合わせがなんとも見事だ。日本料理の見た目の美しさに感嘆してしまう。なお、愛媛では鯛飯も名高い。飯を炊くときに、うろこと腹わたを取り除いた鯛を米の上にのせたものである。

34、たらいうどん(徳島)

讃岐山脈南麓の土成の名物で、もともとは山仕事に出かけたとき、飯を炊く代わりに川原でうどんをゆでたのがはじまりだという。ゆでた手打ちのうどんを半桶に浮かべて食べるところから“たらいうどん”の名がある。ジンゾク(ハゼ科の川魚)を浮かべた醤油味のつけ汁につけて食べる。このつけ汁がいいのだ。なんとも風味があり、うどんの味をひきたてる。土成を貫く国道318号沿いに、何軒ものたらいうどんを食べさせる店がある。さらに今では徳島県のみならず、四国の他県でも名物になっている。

35、そばごめ(徳島)

平家の落人伝説で名高い祖谷は、良質のそばの産地としても知られている。そばは粉にしてそれを掻く“そばがき”や麺に打つ“そば切り”として食べられるが、そのほかに、祖谷特有の食べ方がある。それが“そばごめ”だ。そばごめは粉にしないで、粒のまま食べる食べ方で、粉食に対しての粒食になる。その代表的な食べ方が“そばごめ雑炊”。鶏肉や野菜、油揚などと一緒にそばごめを入れて煮込む醤油味の雑炊で、山里の素朴な味だ。

36、あめごの塩焼き(徳島)

祖谷川にかかる名所かずら橋周辺には、食堂やみやげもの屋が何軒も軒を連ねている。ここでの名物は、渓流魚の女王ともいわれるアメゴ(アマゴ)の塩焼きだ。どの店も、店先にしつらえた火床の炭火のまわりに、串刺しにしたアメゴを円状に立て、塩焼きにしている。アメゴは遠火でこんがり焼け、川魚特有のほのかな香りをあたりに漂わせている。この塩焼きを肴にして飲むビールはうまい。祖谷川を吹きわたる風が気持ちいい。

37、吉野川の鮎(徳島)

鮎を名物にしているところは日本全国にあるが、日本一の鮎といえば、なんたって“四国三郎”こと吉野川の鮎だ。ここの解禁直後の若鮎は、長らく天皇に献上されていたほど。その吉野川の中でも、大歩危あたりでとれる鮎がいいのだ。大歩危には流れの速い鮎瀬戸と呼ばれる好漁場がある。ここまで登ってくる鮎はとくに大きく、また身がひきしまり、吉野川の鮎の中でも最高との折り紙つき。その塩焼きは若草の萌えるような匂いがする。

38、皿鉢料理(高知)

豪華絢爛。豪壮な“皿鉢料理”は、土佐料理の代名詞のようなもの。黒潮洗う南国土佐の魚介類をふんだんに使っているが、それは特定の料理を指すのではなく、直径何十センチもある大皿に盛った料理をみんなで取り分けるハレの日の膳をいう。皿鉢料理の主役は鯛の活きづくりとかつおのたたき。そのほかさわらやはまち、ひらめなどの刺し身も欠かせない。皿鉢料理の豪快さには、太平洋の荒波にもまれる土佐人の気質がうかがえる。

39、かつおのたたき(高知)

皿鉢料理の主役にもなっている。なにしろかつおは土佐を代表する魚なので、かつおのたたきは独立して、それだけで一人歩きしている。土佐の名物料理といえば、まっさきにかつおのたたきが思い浮かぶほど。3枚におろしたかつおを藁を燃やした煙でいぶし、それを刺し身風につくったものである。今ではガスバーナーの火で皮をあぶっているが、昔ながらの藁の火であぶったかつおのたたきはまたひと味、違う。