賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

(12)「オーストラリア2周7万2000キロ」(1996年)の「レイコさん」

「大陸縦断路」の内陸の町、テナントクリークではユースホステル(YH)に泊まった。YHとはいっても、バックパッカーズのような自由な雰囲気のところだった。

 ここではなんと、カブでまわっている「ベンジー」に再会した。彼とはアデレードのバックパッカーズ「ラックサッカーズ」で会っている。「いやー、いやー」と何度も握手をかわす。「ベンジー」は日本からカブを送り出したので、日本の国際登録ナンバー。それも“1”なのだ。 そのほか自転車でまわっているチャリダーの「チャリ久保」と、グレハン(グレイハウンド)のバスでまわっている「レイコさん」がここに泊まっていた。

 日本人旅行者同士、すぐさま意気投合して、

「今夜は一緒にバーベキューパーティーをしよう!」

 ということになり、さっそくスーパーに買い出しに行く。

 Tボーンステーキやチキン、ソーセージ、野菜、ワイン、ビールをゴッソリ買って戻る。 ぼくが肉を焼き、レイコさんがサラダをつくり、ベンジーが米の飯を炊き、チャリ久保がみそ汁をつくる。さっそくカンビールで乾杯。肉もサラダも食べ放題。ボリューム満点の夕食だ。ビール、ワインをチャンポンで飲むほどに話のボルテージが上がっていく。

 ベンジーは酔っぱらったふりをして、

「オレの嫁さんになってくれ」

 と、レイコさんを強引に口説く。

 チャリ久保も負けずに、

「自分も本気だ!」

 とかなんとかいいながら、レイコさんにプロポーズする。なんとレイコさんは一夜にして、2人の男からプロポーズされた。レイコさんはそれほどチャーミングな女性だった。

 2人からプロポーズされたレイコさんは、

「私に追いついたら、結婚してあげる。REIKO」

 と、ベンジーのTシャツと、チャリ久保の新しい軍手にマジックで書いた。

 彼女は夜行バスでテナントクリークから670キロのマウントアイザに向かうのだ。カブとチャリではどんなに頑張っても追いつけるはずがないという訳だ。

 楽しかったバーベキューパーティーは夜の10時でお開きになる。レイコさんは22時30分発のグレハンでマウントアイザに向かうのだ。我々、男どもはベンジーのカブに3人乗りしてグレハンのバスターミナルにレイコさんを見送りに行く。

「レイコ~、気をつけて行けよ!」

 と、投げキスを送りながらの盛大な見送りだ。

 恥ずかしがって顔を赤らめるレイコさん。まわりのオージーたちは笑っている。定刻どおり、グレハンの大型バスはターミナルを出発し、夜道を走り出していった。

 翌朝、ベンジー、チャリ久保と一緒に朝食を食べ、2人に別れを告げてマウントアイザへ。600キロを走り、夕方、マウントアイザに到着した。

 バックパッカーズに行くと、これはかなり期待していたことだったが、レイコさんに再会することができた。さっそく彼女と夜の町を歩き、マクドナルドでハンバーガーを食べ、コーヒーを飲みながら話した。

「ベンジーもチャリ久保もバカだね。レイコさんに追いつこうと思ったら、カブもチャリも捨ててグレハンに乗ればよかったのに」

 と、話題の中心はもっぱらベンジーとチャリ久保のことだった。

 翌朝、バックパッカーズの食堂でレイコさんに朝食をつくってもらい一緒に食べた。そして、8時発のタウンズビル行きのグレハンに乗る彼女と一緒にバスターミナルへ。

「レイコさん、また、タウンズビルで会おう! これからグレハンと勝負するからね」

 と彼女にいって、ぼくはグレハンよりも15分早い7時45分にマウントアイザを出発した。タウンズビルまでの900キロを一気走りするのだ。

 レイコさんはタウンズビルのYHに泊まることになっていた。グレハンのタウンズビル到着は11時間後の19時。それより2、3時間ぐらいまでの遅れはよしとしよう。

「頼むゾ、DJEBELよ!」

 昇ってまもない朝日に向かって突っ走る。丘陵地帯のワインディングを駆け抜け、真昼の大平原地帯の灼熱地獄を突破し、最後に夕暮れの大分水嶺山脈を越え、18時50分にタウンズビルに着いた。

 すぐさまYHに行く。レイコさんはまだ着いていなかった。

「【レイコに会いたい!】の一心でグレハンをブッチギリましたよ。夕食、一緒に食べにいこうね!」

 レイコさん宛のメッセージをレセプションのおばちゃんに手渡しておく。

 レイコさんがYHに到着したのは、それから1時間ほどたってからのことだった。

「グレハンはカソリさんを追い抜くことができなかったのね」

 レイコさんは驚きの表情だ。彼女と一緒に町に出る。2人っきりでデートしているような気分。ひとしきり歩いたところで、メキシコ料理店で夕食にする。ワインで乾杯!

 900キロの一気走りで体はクタクタなのに、気分は不思議なほどウキウキしていた。これというのも“レイコ効果”。YHに戻ると、これから北へ、ケアンズからケープヨークまで行くというレイコさんに、

「これで、ほんとうに最後だね」

 と、別れを告げた。ぼくは南のブリスベーンに向かうのだ。

 翌朝、6時前にYHを出発。

 なんともうれしいことに、レイコさんは早起きしてぼくを見送ってくれた。彼女のやわらかな手をギュッと握りしめ、「さよなら」をいって走り出す。YHの前で手を振るレイコさんの姿は、あっというまにバックミラーから消えた…。