賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

甲武国境の山村・西原に「食」を訪ねて(その15)

 (日本観光文化研究所「あるくみるきく」1986年10月号、所収)

キビの詩(その2)

「みなげて洗って」だが、ごみや小石をとり除くために、精製したキビをくりかえし洗った。最低、3度は【みなげなおし】をした。

 西原で栽培しているキビはほとんどが糯種なので、蒸籠で蒸して「強飯」にしたり、あらかじめ煮ておいたアズキを混ぜて「赤飯」にしたり、搗いて「餅」にした。

 餅にするときはネネンボウ(ヤマゴボウ)やモチクサ(ヨモギ)の葉を搗きこみ、草餅にすることもある。ネネンボウは乾燥させた葉をソーダに入れてやわらかく煮、アクを抜いてから用いる。コーレ(ヤマギボシ)の茎を搗きこむこともある。

 なお、糯種のキビは粘性が強いので、キビだけで搗くとゴムのようになってしまう。そのため、トウモロコシの粉を混ぜて搗くようなこともある。

 キビはハレの日の食べものといってよい。

 養蚕のはじまる前には家中の畳を上げて大掃除をするが、煤取りのあとは一家そろってキビの赤飯やキビのおはぎを食べた。

 正月にはキビ餅を搗く。アワ餅もモロコシ餅も搗く。かつては糯米で搗いた白い餅はお供えの重餅ぐらいで、その重餅も下が白い米の餅で、上がキビやアワの黄色い餅というのが普通であった。

 正月二日は昔から汁粉を食べる習わしになっている。汁粉の中にキビ餅も、アワ餅も、モロコシ餅も、少し余分に搗いた場合だと、糯米の餅も入れる。最後に鍋の底に残るドロッとした餅は、ことのほか美味なものだという。

 まさに、「正月来るのが楽しいな」、なのである。

 なお、アワは糯種と粳種を栽培しているが、西原ではそれぞれ、「モチアワ」と「メシアワ」と呼んでいる。その呼び名通り、モチアワは餅や強飯にし、メシアワは飯にする。モチアワとメシアワの違いは、私の目で見たくらいでは区別がつかないほどよく似ている。またイネと違い、糯種と粳種の収量の違いはほとんどないという。