賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

シルクロード横断:第18回 トルファン(その3)

 2006年9月6日、午前中はバイクで「交河故城」と「カレーズ博物館」をめぐり、午後は有志をつのってタクシーツアーでアイディン湖に向かった。ここは海面下の世界だ。

 タクシーは中国製フォルクスワーゲンのサンタナ。トルファンの町を出ると、交河故城の近くを通り、ポプラ並木を走り抜け、大平原に出る。ゆるやかな下りが際限なくつづく。

 下るにつれて気温も上がり、あっというまに40度を超える。モワーッとする暑さ。熱風が渦を巻いている。高度計にたえず目をやり、シーレベルに到達したところで車を停めてもらった。

 道は2車線の舗装路。道路沿いには背の低い草が生えているが、地平線まで見渡せる大平原に緑はまったくない。荒涼とした世界が延々とつづく。

 荒野はそのままアイディン湖までつづくのではないか…との予想は外れ、かなり大きなオアシスに入った。天山山脈から流れてくる灌漑用水が勢いよく流れ、コーリャンやトーモロコシの畑が広がっている。砂漠も水さえあれば、沃野に変わるのだ。

 オアシスの町の中心には何軒も店が並び、市が立ち、にぎわいを見せていた。ポプラなどの並木が道を覆い、緑のトンネルのようになっている。砂漠を見つづけてきた目には何とも緑がしみるそのオアシスを通り抜けると、再び緑は消え去り、砂漠の風景に変わった。

 一木一草もない大平原をさらに下っていくと、舗装路は途切れ、ダートに突入。ガタンピシャンと飛び跳ねるようにしてタクシーは走った。路面の状況はさらにラフになり、海面下75メートルの地点で引き返すことにした。すでにアイディン湖に入っているのだが、水は干上がり、まったく湖水は見えない。

 トルファン盆地の最低地点がアイディン湖。湖面の標高は海面下154メートル。ここは中国大陸の最低地点であるだけでなく、世界でも第4位にランクされる低地なのだ。

 世界の低地というと死海が最低で海面下400メートル、第2位がガリレー湖で海面下209メートル、第3位がジプチのダンキル砂漠のアッサル湖で海面下174メートル。トルファン盆地のアイディン湖はそれに次ぐ世界第4位の低地なのだ。これらすべては東半球だが、西半球の最低地点はアメリカのデスバレーで海面下85メートル。ぼくは今回、アイディン湖にやってきたことによって、これら5地点の低地にはすべて立ったことになる。思わず「やったね!」と、一人、ほくそ笑むのだった。

 それにしてもすごいのはトルファン盆地からタリム盆地にかけての新疆ウイグル自治区の大盆地だ。北には天山山脈が連なっている。最高峰は標高7439メートルのボベーダ峰。南には崑崙山脈が連なっている。最高峰はムズターグ山で標高7723メートル。西側は「世界の屋根」のパミール高原。そこから南西にはカラコルム山脈が延び、世界第2の高峰、標高8611メートルのK2がそそり立っている。アジア大陸の最奥部といってもいいこのエリアはなんと9000メートル近い高低差のある世界なのだ。

 我々は中国大陸最低地点の「低地」を存分に満喫し、意気揚々とした気分でトルファンに戻っていった。盆地の北側に連なる天山山脈の山並みはボーッと霞んでいた。

 その夜は大広場の夜市にくり出し、羊肉のシシカバブーに食らいつきながら、「天山ビール」を飲んだ。さっぱりした淡白な味わいのビールなのだが、「天山」の2文字に、ぼくはいつも以上に酔ってしまった。「天山」…。シルクロードは小さい頃からの憧れ。「天山」「天山」「天山」…と、何度「天山」を口にしてきたことか…。

天山山脈から流れてくる灌漑用の水路
天山山脈から流れてくる灌漑用の水路

オアシスをロバ車が行く
オアシスをロバ車が行く

海面下75メートルの地点
海面下75メートルの地点

トルファンの夜店。カバブーを焼いている
トルファンの夜店。カバブーを焼いている

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管理人より:

>思わず「やったね!」と、一人、ほくそ笑むのだった。

賀曽利節の炸裂に、思わずほくそ笑んだ管理人でした(笑)。