賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

シルクロード横断:第14回 甘肅省境→ハミ

HAMI MAP

 2006年9月4日、甘肅省から新疆ウイグル自治区に入った。同じ中国とはいっても、何か別な国、新疆国に入ったかのような感じを受ける。道標は漢字とともにウイグル文字でも書かれている。時間は正式には中国の標準時間の北京時間だが、それとは2時間の時差がある新疆時間もごく普通に使われている。

 それも当然のことで、このあたりは経度でいえば東経95度、ミャンマーの首都ヤンゴンよりも西になる。中国の首都北京は東経117度ぐらいなので、経度でいえば20度以上も西になる。出会う人たちもウイグル人が圧倒的に多くなる。中国語を話せない人や、漢字を書けない人も少なからずいる。話す言葉はウイグル語で、「ヤクシミシューズ(こんにちは)」や「ラハメッド(ありがとう)」、「フォイス(さようなら)」といったカタコト語を教えてもらった。

 現代版のシルクロード、国道312号を行く。国道沿いには漢代につくられたという風化した狼煙台が見られた。相当な規模の狼煙台で要塞を兼ねていたかのような大きさだ。ガイドの藩さんは「狼の糞を燃やしたので狼煙」という説明をしてくれたが、狼の糞はよく燃え、煙が空高く上がるという。

 やがて右手には雪山が見えてきた。最初は雲と見間違うかのような雪山だったが、ハミに近づくにつれてはっきりと雪山だとわかるようになった。それは天山山脈ボゴタ支脈のトムラッチ峰。標高4880メートルの山だ。我々のガイドの藩さんはプロレスラーのような体格で、力士並みに腹の出ている人だが、新疆登山協会に所属する登山家なのだ。そんな藩さんはトムラッチ峰には登ったことがあるという。藩さんはそのほか天山山脈のボゴタ峰(5445m)、崑崙山脈のカシタシ山(6920m)、カラコルム山脈のムスタグアタ山(7546m)などに登っている。

 ハミに近づくと、国道沿いの露店ではシルクロードの名産品、ハミウリが山のように積まれて売られていた。我々はバイクを停め、さっそくハミウリを味わう。砂漠の乾燥しきった空気なので、甘味たっぷりのハミウリはいくらでも食べられた。乾燥イモのように干した「干しハミウリ」も食べたが、凝縮された甘さが疲れた体にしみていくようだった。

 ところで「ハミウリ」の原産地はハミではなく、さらに西のシャンシャンだという。日本の有田焼きが伊万里港から出荷されたので「伊万里焼き」と呼ばれたように、シルロードの商業の拠点、ハミから出荷されたので「ハミウリ」になったようだ。

 甘肅省境から200キロ走ってハミに到着。ここは古来からの交通の要衝の地でタリム盆地東側の玄関口になっている。この町一番のホテル「哈密賓館」に泊まる。荷物を部屋に置くと、さっそくハミの町を歩いた。ナン屋ではナンを焼くのを見せてもらい、町中のイスラム教寺院のモスクや郊外の「哈密回王墓」を見てまわった。

「哈密回王墓」は哈密王国の王の墓だが、チベット・モンゴル風の建物とイスラム風の建物という対照的な2つの建物の中に、歴代の王の墓がまつられている。この「哈密回王墓」の北、30キロほどのところには「天山廟」がある。ここは天山山脈を越えていくシルクロードの「天山北路」の要地で、旅人たちは香をたき、旅の安全を祈願したという。「天山北路」と「天山南路」、ハミはシルクロードの2本の幹線を分けるまさに交通の要衝の地だった。

漢代の狼煙台跡
漢代の狼煙台跡

ハミウリの露店。後ろではハミウリを干している
ハミウリの露店。後ろではハミウリを干している

ハミのナン屋
ハミのナン屋

ハミ郊外にある「哈密回王墓」
ハミ郊外にある「哈密回王墓」