賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

甲武国境の山村・西原に「食」を訪ねて(その13)

 (日本観光文化研究所「あるくみるきく」1986年10月号 所収)

大学ノートの詩

 脇坂芳野さんは大学ノートにびっしりと自作の詩を何編も書きとめていた。それを見せてもらい、ページをめくっているちに、私の目はあるページにくぎづけになってしまった。そのページに書かれていたのは、

「雑穀の詩(うた)」

 とでも名づけたくなるような詩で、生活感にあふれ、なおかつ雑穀食というものを見事に描き出していた。

  キミは黒くて    のめっこい

  穂先を手で揉み  箕であっぱ

  水車の臼で     こずかれて

  箕であっぱっぱ  

  糠をとり       みなげて洗って

  蒸籠(せいろ)で

  ネネンボウ入れて モチクサも

  蒸したら臼で    ぺったんこ

  黄色い餅が     うんまいな

  アズキを入れて   赤飯に

  正月来るのが    楽しいな

  ヒエの色は     グレーかな

  槌でたたいて    箕であっぱ

  でっかい釜で    蒸(ふ)かされて

  すると目があき   動き出す

  筵(むしろ)の上に 広げ干す

  水車の臼で     こずかれて

  箕であっぱっぱ

  糠をとり

  ひきやのじょうごに 入れられて

  かずらでくばられ  粉になる

  餅もご飯も      こうばしい

  

  やっぱり水車で   モロコシも

  箕であっぱっぱ   

  糠をとり

  ひきやのじょうごに 入れられて

  かずらが上手に   粒くばり

  ひけた粉を      ふるいかけ

  熱いお湯で      よくこねる

  ひらたくつくり    ふかします

  味噌を一面     なびります

  ひじろで木を刺し  熾(おき)で焼く

  がに色味で     おいしいな

 脇坂さんの「雑穀の詩」はこのように、「キビの詩」、「ヒエの詩」、「モロコシの詩」の3編から成っている。