賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

六大陸食紀行:第6回 アメリカ

 (共同通信配信 1998年~1999年)

「50㏄バイク世界一周」の出発点はアメリカのロサンゼルス。バイク引き取りまでの2週間近くをここで過ごした。

 ロサンゼルスの銀座通りともいえるブロードウェイを歩いていて驚かされたのは、メキシコ人の多いこと。すれ違う人たちを見ていると十人のうち七、八人がメキシコ人というすごさだ。聞こえてくる話し声も米語ではなくスペイン語。店の看板もスペイン語が多かった。

“郷に入れば郷に従え”の旅の鉄則通りに“メキシコ国ロサンゼルス市”では、メキシコ料理を食べあるいた。

 一番よく食べたメキシコ料理といえばタコスである。円形の薄パンのトルティーヤに細かく切った豚肉やほぐした鶏肉、ひき肉、ソーセージ、チーズ、野菜などをのせ、トウガラシをつぶした辛いソースとトマトやタマネギ、コエンドロをみじん切りにした薬味をふりかけ、それを2つ折りにして食べるのだ。

“タコス”の看板を掲げる店をいたるところで見かけたが軽食には最適で、日本でいえばちょっとラーメンを一杯といった食べ方であろうか。

 タコスを包み込むパンのトルティーヤはメキシコ料理の基本といえるもので、日本の食事のご飯に相当する。いかにもトウモロコシの原産地メキシコらしい食べもので、トウモロコシの練り粉を薄く焼いたものである。

 あぶり焼きした牛肉や豚肉の塊を薄く切り、それをさらに焼いたカルネ・アサダの味とトルティーヤのとり合わせもよかった。

 ロサンゼルスからニューヨークまでのアメリカ横断では、いかにもアメリカらしいハンバーガー、フライドチキン、ホットドッグ、サンドイッチや、ナイフがめり込むくらいにぶ厚いビーフステーキなどを食べあるいた。

 だが、心に残る食べものというと、ロサンゼルスで食べたタコスをはじめとするメキシコ料理や、サンフランシスコのチャイナタウンで食べた中華料理、ニューヨークのすし屋で食べたボストン沖のマグロをネタにした握り鮨…といった、多民族国家アメリカを象徴するかのような多国籍の料理だった。