賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

甲武国境の山村・西原の「食」を訪ねて(その8)

 (日本観光文化研究所「あるくみるきく」1986年10月号所収)

夕食の煮込み

 雑穀の種まきを終えると、中川さんはいったん家に帰り、今度はツルハシを持ってモウソウの竹やぶに行く。タケノコ掘りをするのだ。片一方が尖った刃、もう一方が幅広い刃をしたツルハシで地面から顔を出したタケノコのまわりを掘り、とったタケノコを次々に背負籠に入れ、家に持って帰る。

 さっそく庭にしつらえたかまどの大鍋で、皮をむいたタケノコをゆでる。グラグラ煮立ったところで米糠を入れ、アク抜きをする。そのタケノコが夕食に出た。

 夕食はとれたてのタケノコと冬菜の入った「煮込み」。煮込みというのは甲州名物「ほうとう」のことで、国中では「ほうとう」といっているが、郡内では「煮込み」といっている。

 煮込みは小麦粉をこねて塊りをつくり、それをノシイタの上にのせ、ノシボウでのす。それを包丁で切り、ゆであげずに、そのままサトイモやダイコン、カボチャ、青菜などの季節の野菜類やタケノコ、キノコの入った味噌仕立ての汁に入れて煮込んだもの。煮干でダシをとっている。

 麺には具の味と味噌味がしみこみ、熱いのをフウフウいって食べるのは美味なもの。具のタケノコもたっぷり汁を吸ってやわらかくなっている。煮込みには季節の食材を入れてるので、季節感も味わえる。

 この煮込みは夕食に食べるものと決まっていて、毎日といっていいほど、ひんぱんに食べられる。このように煮込みはきわめて日常的な、主食的な食べものになっている。