甲武国境の山村・西原に「食」を訪ねて(その7)
(日本観光文化研究所「あるくみるきく」1986年10月号所収)
午後からは、中川さんにアワとキビの種まきを見せてもらった。じつはこれが今回の西原訪問の大きな目的だった。家の近くの2畝(約200平方メートル)ほどの畑を2分し、一方にアワ、もう一方にキビを播くという。
中川さんはまず庭に腰掛を持ち出して座り、その前に箕を置き、ネズミにやられないように石油カンに入れて保存してあったアワの穂を箕の上でもみほぐす。イネやムギと違って脱粒性の高い雑穀類は、このように手でもみほぐすぐらいで簡単に種がとれるのだ。
その後で箕を振ってゴミを飛ばし、飯碗くらいの大きさのカップに種を入れる。10本の穂からとった種はカップ半分くらいの分量になったが、それで十分なのだという。つづいて同じようにしてキビの種をとる。キビはアワよりもさらに脱粒性が高いので、ほとんど時間をかけないで種をとることができた。
アワとキビの種を比較してみると、アワ粒はキビ粒よりもひとまわりほど小さい。
「粟粒のように」
と小ささの形容に「粟粒」を用いられるが、実物を目の前にすると、なるほどとうなずける。米粒を十等分しても、まだアワ粒よりは大きいであろう。
中川さんは種の入ったカップを背負籠に入れ、小型耕運機のエンジンをかけ、畑まで押していく。
最初に耕運機で耕したあと、三本鍬で畑をならし、うねを立てる。うねとうねの間隔は50センチほどだが、鍬でうちかえした溝の部分に、ひと冬寝かせてつくった堆肥をまき、その上から腰をかがめて振りまくようにパラパラッと種を播いていく。播いたあとから足で種が隠れるかどうかぐらいに土をかぶせていく。
土をうっすらとかけていくことなど、とても私にはできそうにもなかったが、種まきならなんとかできるのではないかと思い、ためしにやらせてもらった。
「下手な人が播くと、どうしても厚くなってしまう」
と中川さんがいわれるように、畑に落ちた種を見てみると、種と種が重なりあい、ムラができてしまっている。
アワもキビも2週間ほどすると芽が出はじめるが、そのあと別に間引きをするわけでもないので、種を厚くまくと苗が密生してしまうのだ。
中川さんの畑の隣も雑穀畑だとのことだが、そこにはすでにキビとモロコシが播かれたという。また別隣りの畑では老夫婦がサトイモの植えつけをしていた。サトイモの種イモは秋に収穫した親イモのまわりについている子イモで、それを冬の間中、土の中に埋めておき、4月から5月にかけて植えつけるという。