賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの新・峠越え:神奈川(11)中山峠(なかやまとうげ)

 2006年6月15日、秦野盆地西端の峠、中山峠に向かった。我が家に近い峠なので、朝食後、ひと仕事かたづけ、10時に出発。国道246号を西へ、スズキDR-Z400Sを走らせる。善波峠を越えて秦野盆地に入り、秦野の中心街近くを走り抜け、小田急線の渋沢駅近くを通り過ぎる。このあたりまでが秦野盆地。国道の右手には丹沢の山々が連なっている。丹沢の山並みを間近に眺められるのが秦野盆地の大きな魅力だ。

 丹沢から流れ出る四十八瀬川にかかる甘柿橋を渡り、「菖蒲」の交差点で国道246号を右折。丘陵地帯の道を行く。右手には秦野盆地の広がりが見渡せる。菖蒲を通り、三廻部(みくるべ)の分岐を直進。道幅がぐっと狭くなる。この道が中山峠に通じている。峠まではゆるやかな登り。やがてゴルフ場沿いの道になる。

 中山峠は太平洋クラブ相模コースのゴルフ場わきの峠で、秦野市と松田町の境になっている。この峠が秦野盆地とこれから下っていく谷間の小盆地、寄(やどりぎ)の境にもなっている。

「中山峠」というのは、日本中にある峠名。北海道の国道230号の中山峠などは「揚げいも」が名物になっているので、とくによく知られている。ぼくはいままでに1500余の峠を越えているが、自分の越えた峠を整理・分類してみると、峠名で一番多いのは「桜峠」で22峠ある。とくに西日本に多い峠名だ。

 それにひきつづいての第2位が「中山峠」になる。中山峠は全部で16峠を越えた。中山峠は桜峠とは反対に東日本に多い峠名。つづいて第3位は「地蔵峠」と「大峠」で、それぞれ15峠を越えた。中山峠と地蔵峠大峠はきわどく競り合っている。第5位以下になるとガクッと数が少なくなるが、第5位は山伏峠と三国峠で8峠、第7位は中山峠と似た峠名だが山中峠の7峠、第8位は鳥居峠(鳥井峠を含む)の6峠、第9位は富士見峠と堀切峠の5峠で、第5位から10位までもほとんど数に差はない。

 そのほかに多い峠名というと国見峠、観音峠、山王峠、椿峠、水越峠、大坂峠、七国峠、七曲峠、物見峠、白石峠、清水峠、矢筈峠などがあげられる。

 さて秦野市と松田町境の中山峠だが、峠で道は2本に分かれる。ともに寄に下っていくが、直進する舗装林道の土佐原林道を行く。峠上にはこの土佐原林道の開通記念碑が建っている。中山峠を越えて寄側を下っていくと茶畑が多く見られるようになる。峠を境にしての、鮮やかな風景の変化だ。林道沿いには名水。そこには地蔵がまつられ、名水を飲めるようにと柄杓も置いてある。休めるようにと石づくりの椅子もある。バイクを停めて小休止。柄杓で名水を飲んだが、じつにうまい水。やわらかな感触の水で若干の甘味を感じる。つづけて2杯目、3杯目と飲み干した。このように丹沢の周辺には何ヵ所にも名水がある。

 土佐原林道を下っていくと、寄郵便局のわきに出た。ここまで我が家から21キロ。1時間ほどで着いてしまう。しみじみと我が家は「峠越え」には絶好の拠点だなと思うのだ。伊勢原を拠点にすると、神奈川県内の大半の峠にわけなく行ける。これは「峠越えのカソリ」にとっては、何ともありがたいことだった。

 小田急線の新松田駅に向かっていくバスが通り過ぎたが、それは富士急バス。秦野盆地は神奈中バスだ。峠を越えるとバスが変わるのは、よく見られることだ。

 寄には大杉があった。寄神社入口の大杉で樹齢580年。地上12メートルのところで何本かの大枝に分かれているが、樹高30メートル、周囲6・4メートルという見上げるような大杉だ。神社の境内には大銀杏もある。樹齢700年。樹高は30メートル、周囲6・2メートルと大杉に負けない大木。このような巨木があるというところに寄の歴史を感じた。ほかの世界とは隔絶されたような谷間に開けた小世界の寄をあとにし、中津川沿いに走る。集落を抜け出ると深い谷間を見下ろし、やがて国道246号に出、そこから伊勢原に戻った。

中山峠
中山峠

中山峠の名水
中山峠の名水

峠道沿いの茶畑
峠道沿いの茶畑

寄の大杉
寄の大杉