賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの新・峠越え:神奈川(7)半原越(はんばらごえ)

 2006年4月4日午前9時、神奈川県伊勢原市の自宅を出発。目指すのは半原越だ。うれしくなるような晴天で、この季節とは思えない透き通った青空が広がっている。ぼくはツーリングに出ると、天気に関係なく雨でも雪でも、台風の大風の中でもバイクを走らせるが、やっぱりツーリングにはこの抜けるような青空が一番。思わず鼻唄まじりでスズキDR-Z400Sのハンドルを握ってしまう。

「いやー、バイクっていいねえ!」

 伊勢原からは県道64号を行く。厚木市から清川村に入る。村役場を通り過ぎ、煤ヶ谷のバス停を過ぎたところで県道を右折。そこには「リッチランド」の看板。この看板が半原越への目印になっている。峠下の法論堂(おろんど)の集落を通り過ぎたところで舗装林道の法論堂林道に入っていく。

 じきに「リッチランド」。ここにはキャンプ場やコテージ、バンガロー、それと露天風呂(入浴料650円)がある。緑に囲まれた露天風呂の湯につかる。3段になった岩風呂。一番下が温めの湯。森林浴しながら気分よくつかれる湯だ。露天風呂もきれいにしてあるが、まわりの庭園にもきめこまかく手を入れている。

リッチランド」からは法論堂林道で峠を目指して登っていく。峠にかなり近づいたところで、ぼくの心臓は凍りついた。左への急カーブを曲がった瞬間、「バッファローだ!」と思ったほど大きな鹿が山肌を駆け降り、目の前を横切り、谷底へ下っていった。というより谷底にダイブするかのような勢いだった。ほんのすこしタイミングがズレていたら、大鹿に激突…。大鹿もろとも谷底に転落していた。北海道最長林道の道東林道や九州最高所林道などではひんぱんに鹿に出会った。そのほか日本各地の林道で鹿には遭遇したが、これほどの大鹿に出会ったことはない。目に焼きつくほどの巨大鹿だったが、さすが「強運のカソリ」、間一髪で助かった!

 半原越に到着。清川村の煤ヶ谷一帯はかつては養蚕が盛んだった。煤ヶ谷の養蚕農家の人たちは繭を背負ってこの峠を越え、半原へと下っていった。半原は江戸時代からの「糸の町」。「半原撚糸」で知られていた。

 そんな半原越にバイクを停め、仏果山に登った。これからの「新・峠越え」では、峠にバイクを停めて、目ぼしい山にはできるだけ登ろうと思うのだ。仏果山はその第一弾。最初は急な登り。ヒーヒーハーハーいってしまう。比較的平坦な尾根道になると、ホッとひと息つけた。土山峠への分岐を過ぎると、採石場からの音が聞こえてくる。

 革籠石(かわごいし)山を過ぎると、けっこう荒れた登山道になり、登り下りも急になる。そして標高747メートルの仏果山の山頂に到着。そこには展望台。清川村のコンビニで買ったおにぎりを山頂で食べた。半原越から仏果山までは2・6キロ。来た道を引き返し、半原越に戻ったが、往復で2時間30分だった。

 峠を下るとすぐに名水。手ですくって飲んだが、山歩きしたあとなので、体中にしみわたるようなうまさだった。峠道をさらに下ったところが清川村愛川町の境。さらに下り、国道412号に出る。厚木方向に走り、中津川河畔の塩川温泉「こまや旅館」(入浴料500円)の湯に入る。ここには10年前にも来たことがあるが、そのときも入浴料は500円だった。10年間も入浴料が変わらないというのは、なんともうれしいことではないか。

 塩川温泉のわきから小道に入って塩川滝へ。すぐそばを国道412号が通っているとは思えないほどの「深山幽谷」を感じさせるところで、滝見台から眺める塩川滝は迫力満点。水量の多い滝が垂直に断崖絶壁を流れ落ちている。ここはかつては修験者の修行の場。中津川に近い八菅山の八菅神社から塩川滝、仏果山、さらには大山へと修験の道ができていた。塩川温泉&塩川滝を最後に厚木経由で伊勢原に戻った。

「リッチランド」の露天風呂に入る
リッチランド」の露天風呂に入る

半原越
半原越

仏果山の山頂
仏果山の山頂

塩川滝
塩川滝