賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの新・峠越え:神奈川(6)牧馬峠

 2006年4月4日午前9時に伊勢原市の自宅を出発。スズキDR-Z400Sを走らせ、まずは土山峠へ。うれしいことに峠周辺の桜は満開。華やいだうきうきするような気分でバイクを走らせた。

 県道64号で土山峠を越え、宮ヶ瀬湖から名無しのゆるやかな峠を越えて鳥屋(とや)に下る。そこからもうひとつ、トズラ峠を越えると国道413号の青野原に出る。伊勢原から青野原までが県道64号になる。すぐに国道を右折。この道が牧馬峠に通じている。

 相模川最大の支流の道志川を渡り、大きな採石場の前を通り、牧馬の集落へと登っていく。その途中からの眺めがすごくいい。眼下を曲がりくねって道志川が流れ、対岸の河岸段丘上には青野原の家並みが見えている。「これが河岸段丘ですよ」といわんばかりの、まさに「河岸段丘」の典型を見るような風景だ。

 家数の少ない牧馬の集落を通り過ぎ、牧馬峠に向かっていくと、裏丹沢の山並みを一望。丹沢は大山塊だ。峠の手前で道は突然、狭くなる。道の両側には鉄製のポールが立っている。バイクにとってはまったく問題ない道幅だが、このポールの幅以上の車は入れない。そんな細道を走り、広い道に抜け出たところが標高410メートルの牧馬峠(まきめとうげ)だ。

 牧馬峠から急勾配・急カーブの峠道を下ると篠原の集落。この牧馬峠北側の峠道は冬場だと雪や氷でかなりきつい道になる。篠原の間宮商店の自販機で缶コーヒーを飲む。店にはシャッターが下りていたが、ここで缶コーヒーを飲むのは牧馬峠越えのいつものパターンなのだ。

 今から30年以上も前のことになるが、東京の高尾山から何人かの仲間と一緒に東海自然歩道を歩き、石老山の山頂から篠原へと下った。その夜は篠原の手前の草原で野宿した。ぼくは篠原まで買い出しに行き、間宮商店で一升びんを3、4本買い込んだ。野営地に戻ると、満月のもとでおおいに飲み明かし、一升びんをすべてカラにした。翌日は二日酔でフラフラになりながら篠原から牧馬峠を越え、愛川町の半原まで歩いた。そのときのメンバーの1人が私の奥さん…。こうして篠原でバイクを停め、缶コーヒーを飲むたびに30何年も前のあの満月の夜がよみがえってくる。

 間宮商店を過ぎたところでT字の交差点になるが、そこを直進して相模湖へ。ぼくは中央道を使うときは伊勢原から牧馬峠を越え、篠原を通っていく。相模湖ICから入るときはこの交差点を直進し、上野原ICから入るときは左折する。

 今回は直進。山間を縫って走り、国道412号に出た。そして相模湖へ。湖畔の桜が満開だった。そんな桜の下でバイクを停め、しばし花見を楽しんだ。相模湖からは国道20号を横切り、JR中央線の相模湖駅前に出た。そこが「牧馬峠越え」のゴール。伊勢原からは42キロの地点。相模湖駅前からは来た道を引き返し、もう一度、牧馬峠を越えて伊勢原に戻るのだった。

道志川を見下ろす
道志川を見下ろす

牧馬峠
牧馬峠

牧馬峠北側の峠道
牧馬峠北側の峠道

篠原の間宮商店。我がなつかしの店…
篠原の間宮商店。我がなつかしの店…