賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの新・峠越え:神奈川(4)ヤビツ峠

 2006年3月29日午前9時、神奈川県伊勢原市の自宅を出発。スズキDR-Z400Sで国道246号を西へ。いやはやなんとも悲しくなってしまうのだが、花粉症まさに最高潮といったところで、走り出して早々にクシャミの連発。鼻水ズルズル状態で走る。「花粉症なんかに負けないゾ!」と気合を入れたとたんに、「クシャーン、クシャーン」とクシャミの連発なのだから、もうほんとうにいやになってしまう…。

 

 伊勢原秦野市境の善波峠(神奈川-1参照)を越え、秦野盆地に入っていく。この善波峠は関東平野と秦野盆地の境にもなっている。善波峠を下った名古木(ながぬき)の交差点を右折。その道が丹沢の山並みを越えるヤビツ峠に通じている。名古木の交差点には「ヤビツ峠」と表示された道標があるが、峠名の記された道標を目にすると、体がゾクゾクッとしてしまう。信州はさすがに「峠の国」だけあって、峠名の記された道標が数多くあるが、信州に限らず、この「ヤビツ峠」のように道標にはどんどんと峠名を入れてほしいものだ。

 最奥の集落、蓑毛ではバイクを停め、臨済宗建長寺派の大寺・宝蓮寺の本堂へ。そして道をはさんで反対側にある大日堂などを参拝した。この蓑毛からは大山への登山道がある。江戸時代には開かれていたという歴史の古い大山への裏参道だ。

 蓑毛からヤビツ峠の峠道がはじまる。途中からは道幅が狭くなるので対向車には要注意。峠道の途中ではうれしいことに右側に入っていくゲートのない林道を発見。六本松林道だ。ヤビツ峠への登山道にぶつかるところで行き止まりになるが、そこまでは2・7キロ。往復5・4キロの林道走行を楽しんだ。六本松林道の入口を過ぎてまもなく「菜の花台」に着く。ここは丹沢一の展望台といっていい。眼下には秦野盆地が広がり、相模湾もよく見える。背後には丹沢主脈の山々。ここはまた夜景の名所にもなっている。宝石箱をひっくりかえしたような秦野盆地のきらめく夜景が見られる。

「菜の花台」からの展望を目に焼き付け、ヤビツ峠へ。表丹沢林道入口を通りすぎ、標高761メートルのヤビツ峠に到達。そこには「水源涵養林春嶽山」の碑。峠には駐車場があって、小田急線の秦野駅からここまでバスが来ている。ヤビツ峠は丹沢登山の絶好の拠点。右側の登山道を行けば大山へ。ここからだと1時間ほどで大山に登れる。左側を行けば丹沢表尾根の二ノ塔、三ノ塔から主峰の塔ノ岳、丹沢山へと通じている。ヤビツ峠にバイクを停めて早朝に出発すれば、日帰りでの丹沢山まで往復は十分に可能だ。

 秦野盆地は日本の特異地帯といってもいいほどで、ほとんど雪が降らない。東京でひと冬に23日も雪が降ったとき、秦野盆地で雪になったのは2、3日だけだったという。ところがこのヤビツ峠の北側は対照的にひんぱんに雪になる。ヤビツ峠は冬期間も閉鎖されることはないので何度か冬にも走ったことがあるが、冬の峠越えは氷雪との闘いになる。新雪だとまだ走りやすいのだが、ツルンツルンに凍ったアイスバーンの峠道を下るのはなんとも怖いもの。「オーオーオーオー」と声を出しながら、あえなくステーンと転倒してしまう。そうとわかっていても雪道&アイスバーンをバイクで、それもノーマルのタイヤで走るのが大好きなカソリなのだ。

 今では県道70号になっているヤビツ峠越えの道だが、かつては東京に一番近い本格的なダートコースの丹沢林道として知られていた。オフロードを走ろうと、何度、丹沢林道にやって来たことか…。当時は表丹沢林道も自由に走れた…。ヤビツ峠から宮ヶ瀬へと渓流沿いに走りながら、そんなダート時代がなつかしく思い出されてならなかった。

 東丹沢の山並みを越えるヤビツ峠は貴重な存在だ。西丹沢の山並みを越える峠に犬越路があるが、一般車の通行は禁止されたままになっている。ということで、ヤビツ峠はすぐ西の菩提峠(次回参照)とともに車やバイクで越えられる数少ない峠になっている。

 宮ヶ瀬で県道64号に出ると、やまびこ大橋で宮ヶ瀬湖を渡り、湖畔を走り、土山峠(神奈川-3参照)を越えて伊勢原に戻った。

蓑毛の宝蓮寺
蓑毛の宝蓮寺

六本松林道
六本松林道

菜の花台の展望台
菜の花台の展望台

ヤビツ峠
ヤビツ峠