賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの新・峠越え:神奈川(3)土山峠

 2006年3月27日午前10時、神奈川県伊勢原市の自宅を出発。スズキDR-Z400Sに「さー、行くゾ!」とひと声かけて走りだす。今回、目指すのは土山峠(つちやまとうげ)だ。峠への途中では丹沢東山麓の「温泉めぐり」をする。第1湯目は我が家に最も近い伊勢原温泉。「ニュー天野屋」(入浴料1000円)の広々とした湯船にゆったり気分でつかった。湯から上がると肌がツルツルしている。このツルツル感が伊勢原温泉の特徴だ。

 伊勢原市から厚木市に入る。第2湯目は七沢温泉。「七沢荘」(入浴料1000円)の露天風呂に入った。ここの露天風呂は趣があって東京近郊では最高の部類に入るもの。湯から上がると、名物の猪鍋を食べた。「これぞ丹沢の味!」といったところだ。猪肉のうまさが腹わたにしみ込んだ。ここは予約なしでも食べられる。

 猪鍋に大満足したところで、休む間もなく、第3湯目の広沢寺温泉、第4湯目のかぶと湯温泉と連湯した。ともに七沢温泉近くの一軒宿の温泉。曹洞宗の広沢寺前にある広沢寺温泉「玉翆楼」(入浴料1000円)では露天風呂に入った。こぢんまりとした露天風呂。おい茂る木々に囲まれたかぶと湯温泉「山水楼」(入浴料1000円)はこのエリアでは一番の秘湯だ。ここでは小さな内風呂の湯に入ったが、泉質の良さには定評がある。

 厚木市から清川村に入る。第5湯目が別所温泉。村営の日帰り湯「別所の湯」(入浴料700円)があるが、この湯は温泉ではないので、その手前「旅館元湯」(入浴料800円)の湯に入った。以前、泊まったことのある温泉宿なので、湯につかりながらなつかしさを感じる。ここまでが我が家から10キロ圏。「さすが温泉のカソリ、じつに環境(温泉)のいいところに住んでいる!」と自画自賛

 さらにもう1湯、飯山温泉に寄り道したあと、県道64号で土山峠へ。途中、煤ヶ谷では舗装林道の谷太郎林道に入り、道の行き止まり地点まで行った。丹沢から流れ出る渓流の美しさには目を奪われてしまう。バイクを停めるとブーツを脱ぎすて、渓流の中に入った。ヒヤーッとした感触。透き通った渓流の流れを手ですくい、顔を洗い、丹沢の自然を自分の肌で存分に感じとるのだった。

 県道64号に戻ると、唐沢林道(ゲート)の入口を通り過ぎ、ワインディングの峠道を走り抜け、標高400メートルの土山峠に到達。そこには神奈中バスの「土山峠」の停留所。清川村は昭和31年(1956年)に南の煤ヶ谷村と北の宮ヶ瀬村が合併してできた村で、土山峠は旧2村の境になっていた。

 土山峠を越えると風景は一変し、宮ヶ瀬ダムによってできた宮ヶ瀬湖が目の中に飛び込んでくる。宮ヶ瀬ダムは平成13年(2001年)に完成した巨大な重力式ダム。ダムの高さは156メートルで日本でも第6位。関東では奥利根の奈良俣ダムに次いで第2位。宮ヶ瀬ダムによってできた宮ヶ瀬湖は関東でも最大の人造湖になっている。そんな湖畔の道を走る。湖底には清川村の北半分、旧宮ヶ瀬村の各集落すべてが沈んでいる。残り半分になってしまった清川村平成の大合併の荒波を乗り越え、いまだに一村として存続しつづけているが、神奈川県では唯一の村になる。「ガンバレ、清川村!」。

 東丹沢の山々に囲まれた宮ヶ瀬湖を眺めながらバイクを走らせ、湖のまわりをぐるりと一周する。その途中では宮ヶ瀬ダムを見、ビジターセンター(無料)を見学し、湖畔の園地をプラプラ歩いた。そしてもう一度、土山峠を越えて伊勢原に戻るのだった。

七沢温泉「七沢荘」の露天風呂に入る
七沢温泉「七沢荘」の露天風呂に入る

別所温泉の「旅館元湯」
別所温泉の「旅館元湯」

土山峠
土山峠

宮ヶ瀬湖
宮ヶ瀬湖