賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

「鵜ノ子岬→尻屋崎2012」(64)

 名残おしい尻屋崎を出発。Vストロームでの旅はまだまだつづく。

 岩屋に戻ると、海峡食堂「善」で昼食。「ホタテの刺身定食」を食べた。津軽海峡を眺めながら食べるホタテの刺身はうまかった。ホタテの味の良さに風景の良さがプラスされるので、よけいにうまさを感じる。風景は一品以上のおかずになる。これがバイクツーリングの良さというものだ。

 大満足で岩屋を出発。県道6号から大間崎への最短路の県道266号に入っていく。以前はかなりのダート区間が残っていた県道266号だが、現在は全線が舗装。広狭混在の道に変わりはないが、交通量極少ルートなので快適に走れる。

 国道279号に合流するとイカ漁の盛んな大畑漁港に立ち寄り、大畑からは海岸近くの木野部峠を越え、下北半島の名湯、下風呂温泉に下っていく。

 下風呂温泉では共同浴場の「大湯」に入った。ここではうれしい湯の中談義。熱めの湯につかりながらUターンで故郷に戻ってきたという年配の人と話した。こうした裸の付き合いができるのが日本の温泉の大きな魅力というものだ。

 下風呂温泉をあとにし、本州最北端の大間崎に到着。ここではカソリ、初転倒…。

「こゝ本州最北端の地」と彫り刻まれた石碑の前にバイクを置いて写真を撮ろうとしたとき、縁石にステップを接触させて転倒した。足の上にバイクがのってしまい、身動きがとれなくなった。V-ストロームは214キロと、このクラスでは最軽量のバイク。走っているときは軽快なのだが、足の上にのってしまうと、いやー、重い、重い。

 足がはさまってしまったので、まったく身動きがとれず、自分一人では持ち上げられない。カメラマンの巣山さんに「助けてー!」と叫んで起こしてもらった。

 そんなハプニングはあったが、心に残る大間崎になった。クキド瀬戸をはさんだ弁天島には白黒2色の大間埼灯台津軽海峡の対岸には北海道がはっきりと見えている。

 夕日を浴びた大間崎の漁港での撮影を終えると、本州最北宿の民宿「海峡荘」に行く。いつものカソリ流で飛び込みで行ったのだが、快く泊めてもらうことができた。

 うれしいことに夕食も用意してくれた。

 巣山カメラマンとの大間での「宴会」の開始だ。

 ビールでの乾杯したあとは、宿のおかみに下北の地酒をついでもらう。夕食は豪華版の海鮮料理。大間マグロのトロつきで、見た目には牛の霜降りそっくり。トロッとした絶妙の味わい。大間産の生ウニもついている。

 我々の酒量はさらに上がった。夕食を食べ終えても「大間宴会」はつづき、部屋での飲み会になる。深酒で足も腰もふらついてきた頃、

「カソリさん、ちょっと出てきます」

 といって巣山さんはカメラを手にして外に出た。

 戻ってくるなり大間崎の夜景の写真を見せてもらった。降るような星空のもと、宿の前に立つ「本州最北端の地碑」の写真はすごいの一言。それはゾクゾクッとするほど迫力で、津軽海峡の無数の漁火やほのかな函館の町明かりが背後に映し込まれていた。巣山カメラマンのプロ根性を見せつけられたような思いがした。

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岩屋の海峡食堂「善」

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「ホタテの刺身定食」

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下風呂温泉の共同浴場「大湯」

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大間崎の漁港

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大間崎の本州最北端の碑

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大間崎の民宿「海峡荘」

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「海峡荘」の夕食