賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの林道紀行(31)東北編(その3)

みちのく5000(3)

(『バックオフ』2005年9月号 所収)

          

「クワー、たまらないぜー!」

 緑のトンネルを走りながらそう叫ぶ。“みちのくの狼”カソリ、ただいま、東北のダートを激走中。最高におもしろいぜ、この世界は‥‥。

 ということで、第2弾目の会津国を行く。

「みちのく5000」第2弾目のメンバーは、“みちのくの狼”カソリと“ヨカシャバ”迫坪のコンビ。東京渋谷の「BO」編集部を午前4時に出発。我らの相棒は、カソリがDR250R、ヨカシャバはDJEBEL200と、スズキコンビだ。

「みちのくのダートを徹底的に走りまくってやるぞー!!」

 と、カソリ、牙をむいて、胸を熱くさせて、夜明けの空に向かって吠える。

 首都高から東北道と、高速道の一気走りをし、栃木県から福島県に入り、白河ICで高速道を降りる。

「さー、いよいよ、始まるのだ」

 この白河が、“みちのく5000”の出発点であり、終着点にもなる。

 ところで白河IC手前の高速道沿いには「これよりみちのく」と書かれたコケシの絵入りの看板が立っていたが、それが印象的だ。

 白河からはR289で甲子峠へ。福島県の“母なる流れ”阿武隈川上流に沿った道。山地に入った新甲子温泉の湯に入る。この新甲子温泉が自分にとっての第1001湯目。

「さー、2000湯を目指すぞ!」

 新甲子温泉からは、さらに阿武隈川に沿って上流へ。R289は甲子峠を貫くトンネルが未完成なので、ここで行き止まり。阿武隈川源流碑の前を通り、最奥の甲子温泉へ。ここでは一軒宿「大黒屋旅館」(入浴料600円)の大浴場に入った。混浴の湯。3人のオバチャンたちと一緒になったが、3人が3人とも、豊かな胸をしている。娘時代のようなハリもあって、カソリ、湯の中で頭をクラクラさせてしまうのだ。混浴はいい!

 R289は行き止まりなので、来た道を引き返し、白河から11キロ地点の“雪割橋・鎌房林道”の標識に従って国道を折れ、阿武隈川にかかる雪割橋を渡る。目のくらむような峡谷。橋のたもとには104頭の熊の霊をまつる熊供養碑が立っている。

 第1本目の鎌房林道は、入口を間違え、白河高原牧場に入ってしまう。牧場内のダートを4キロ走り、それが今回のダートの第1本目になった。

 さて、鎌房林道。角に「陸上自衛隊 郡山駐屯地業務隊長」名の告知板が立っているところで右に折れ、すぐにダートに入っていったが、梅雨空からは雨が降ってくる。雨足は早くなり、土砂降りになる。ヨカシャバとなぐさめあって走るのだ。

 林道入口から5キロ地点で西部林道との分岐。そこを左へ。ラフなダートを稜線上へと登っていく。鎌房山(1510m)の山頂直下までが、鎌房林道になる。そこから、そのまま甲子林道へと入っていく。ロック、マッドと、よりラフな路面だ。

 標高1387メートルの甲子峠に到着。そこには、ライダー2人の先客がいた。

 ナ、ナント、「木賊軍団」のキャンプでおおいに盛り上がった仲間の坂間克己さんと古山隆行さんではないか。あまりの偶然に狂気乱舞で再会を喜びあった。

 坂間さん、古山さんに別れを告げ、甲子峠を下っていく。西郷村下郷町の境の峠だが、下郷町側の路面の状態はよく、やがて、R289の舗装路になる。ダート22キロの鎌房甲子林道は、最高におもしろい峠越えルートになっている。

 第3本目のダートは湯本温泉近くのR118から入っていく黒沢林道。県道羽鳥福良線を左に折れ、黒沢の集落を過ぎるとダートに入る。道幅の狭い、路面の荒れた林道。やたらと“熊注意”の看板が立っている。安藤峠手前(T字路の分岐)で左に行ってしまい、行き止まり林道を走るというハプニングもあったが、峠を越え、舗装路に出、ミスコース分も含め25キロのダートだった。

 会津若松からR294を行き、猪苗代湖南の福良からさきほどの県道羽鳥福良線に入る。かつてのダートコースは舗装され、かろうじて馬入峠に4キロのダートが残っている。湯本温泉「本家星野屋」に泊まった。

 翌日は、湯本温泉を出発点にし、そしてまた、湯本温泉に戻ってくるダートコースを往復したが、これが最高におもしろかった!

 まず、R118から二岐温泉への道に入っていく。これがいきなりダートで、うれしくなってしまう。名無し林道なので、この林道は「二岐温泉林道」と名づけておこう。あふれんばかりの緑の中を走っていくのだが、目の中まで緑一色に染まってしまうほどの色鮮やかさなのだ。

 5キロのダートを走ると二岐温泉。林道を走ってたどり着く温泉だなんて、“我ら林道派”には、ぴったりの温泉ではないか。

「大和館」(入浴料500円)の内風呂と露天風呂に入ったあと、目の前を流れる渓流に入って“渓流浴”。川から上がると、体がカーッと火照っているような錯覚をおぼえる。

 二岐温泉からさらにダートを走る。奥西部林道のゆるやかな峠を越え、T字路を右折し、西部林道に入っていく。これがなかなかの林道なのだ。7キロのダートを走り、いったん舗装路に出、羽鳥スキー場へ。峠を越える。この峠は名無し峠なので、羽鳥峠と出もしておこう。

 自衛隊の演習地に隣あったゆるやかな峠道を下っていくと、前日の鎌房甲子林道との分岐点に出る。ここまでが西部林道になる。さらに鎌房林道を下り、舗装路に出る。例の陸上自衛隊の告知板が立っている鎌房林道の出入口の地点だ。

 前日の大雨とは打って変わって、上天気。抜けるような青空とカーッと照りつける夏の太陽。もう、それだけでうれしくなってしまう。

 来たときとは逆のコースで、鎌房林道→西部林道→奥西部林道と走る。往復で48キロのダートを走ったが、存分に林道走行を楽しめる「湯本温泉発湯本温泉着」のコースだ。

 湯本温泉からは、会津国の都、会津若松へ。会津に来たのだからと、鶴ヶ城天守閣に登る。そこからは会津国をとり囲む山々を一望した。

 さあ、出発だ。会津の林道を走りまくるのだ。

 まずR401で会津高田に行き、海老山林道に入っていく。峠に向かってグングン高度を上げる。むせかえるような濃い緑。ガックリきたのは、峠近くで急に道幅が広くなり、やがて舗装路になったこと。まあ、仕方がないか‥‥。

 つづいて漆峠林道に入る。これも峠越え林道。2本の林道を合わせ、18キロのダートを走り、西山温泉「瀧之湯」(入浴料500円)の湯に入った。

 只見川流域の柳津に出、R252で会津宮下へ。そこから大辺峠に向かう。その途中で名無し林道に迷い込むというハプニングもあったが、入間方不動沢林道(峠までは舗装。その先の4キロがダート)を走り、再び只見川流域の金山に出た。

 日が暮れたところで大塩温泉へ。

「たつみ荘」でとまる。湯は外湯。隣あった共同浴場の湯に入るようになっている。スーッと、1日の走りの疲れが抜けていくような湯だった。

■林道メモ

1・鎌房甲子林道

ダート距離 22キロ

走りごたえ ★★★★★

景色のよさ ★★★★★

西郷村側からダートに入っていくと、7キロ先で西部林道と分岐し、鎌房山頂直下で甲子林道になり、16キロ先で甲子峠に到着する。

2・黒沢林道

ダート距離 15キロ

走りごたえ ★★★★

景色のよさ ★★★★

天栄村側から行くと、R118から県道羽鳥福良線に入り、1キロ先で左折。ダート入口から6キロほどで安藤峠。天栄村側はラフだ。

3・県道羽鳥福良線

ダート距離 4キロ

走りごたえ ★★

景色のよさ ★★

かつては馬入峠越えのけっこうおもしろいダートコースだったが、今は峠までの郡山市側は全線舗装、天栄村側にわずかなダートが残る。

4・奥西部林道

ダート距離 9キロ

走りごたえ ★★★

景色のよさ ★★★★

R118から二岐温泉へ。ここでは“ちょっとひと風呂”がいい。二岐温泉から西部林道の分岐までの間、4キロは心に残るコース。

5・西部林道

ダート距離 13キロ

走りごたえ ★★★★

景色のよさ ★★★

奥西部林道から入っていくと、7キロのダートを走り、いったん羽鳥スキー場に出る。そこから6キロのダートで鎌房林道との分岐へ。

6・二岐温泉林道

ダート距離 3キロ

走りごたえ ★

景色のよさ ★★

R118から直接、奥西部林道に入るときにはこのルートを使うと便利。国道から2キロの舗装路、3キロのダートで分岐点に到着する。

7・海老山林道

ダート距離 8キロ

走りごたえ ★★★

景色のよさ ★★★

R401からだと、会津高田の中冑という集落から入っていく。峠近くまではけっこうおもしろく走れるが、柳津町側は大半が舗装路。

8・漆峠林道

ダート距離 10キロ

走りごたえ ★★★

景色のよさ ★★★

海老山林道の峠を越え、柳津側に下ったところで漆峠林道に入ったが、林道入口から林道出口まで、キチッと全線ダートなのがいい。

9・名無し林道

ダート距離 4キロ

走りごたえ ★★

景色のよさ ★★

三島町と昭和村境の大辺峠を越えようとして、この名無し林道に迷い込んだ。砂防ダムのわきをのぼっていくと4キロ先で行き止まり。

10・入間方不動沢林道

ダート距離 4キロ

走りごたえ ★★

景色のよさ ★★★★

三島町側は大辺峠まで舗装でがっかり。昭和村側に4キロのダートが残る。峠からの眺望はすばらしく、志津倉山の絶壁が目の前だ。

■温泉メモ

1・新甲子温泉      

みやま荘(入浴料1000円)。大浴場と隣あった大露天風呂には気持ちよく入れる。湯が自慢の宿。黄褐色の湯の色。

2・甲子温泉

大黒屋旅館(入浴料600円)。ここの大浴場はおすすめ。混浴の湯で、女湯は別にあるが、女性の入浴客がきわめて多い。

3・湯野上温泉

残念ながら今回は素通りしてしまったが、大川の渓谷を目の前にする温泉。露天風呂のある宿も何軒かある。

4・岩瀬湯本温泉

本家星野屋旅館(宿泊)。湯本温泉でも一番歴史の古い宿。茅葺きの重厚な屋根がその歴史を物語っている。

5・二岐温泉

大和館(入浴料500円)。内風呂と露天風呂がある。渓流のわきの露天風呂につかったあと、ここでは渓流浴した。

6・東山温泉

会津最大の温泉地。温泉街を見下ろしただけで素通りしたが、ここでは入浴のみは難しい。共同浴場もない。

7・西山温泉

瀧之湯旅館(入浴料500円)。清流を目の前にする内風呂の湯は若干、白濁している。湯からあがると肌はツルツル。

8・大塩温泉

たつみ荘(宿泊)

温泉は隣あった共同浴場(入浴料200円。7~21時)に入る。泊まり客は無料。

■コラム■白河関

“みちのくの狼”カソリと“ヨカシャバ”迫坪の“みちのく5000”踏破隊は、白河の町に入ると、まず最初は、白河関跡に行った。

 ちょっとわかりにくいところにあるが、白河からR289を甲子温泉とは反対方向の棚倉方面に向かい、数キロで国道を右折。県道阪本白河線を行ったところにある。白河の町からは12、3キロといったところ。

 白河関といえば、太平洋岸の勿来関日本海岸の念珠関と並ぶ“奥羽の三関”といわれたほどの要衝の地。まさに“みちのく”の玄関口といったところ。みなさんには、ぜひともおすすめのツーリングスポットだ。

 昔の奥州街道、今の時代でいえばR4は、この地を通っていた。ちなみに東北道は新奥州街道、R4は奥州街道、R294は旧奥州街道白河関跡のある県道阪本白河線は旧々奥州街道といえるが、これら4本のルートは、ほぼ並行して関東から白河に通じている。

 白河関跡でうれしくなるのは芭蕉の「奥の細道」と出会えたこと。芭蕉の句碑や「奥の細道」碑が建っている。芭蕉は「白河の関にかかりて、旅心定まりぬ」と「奥の細道」で書いているが、この地を通り過ぎることによって、「さあ、やってやろうじゃないか!」と、みちのくの旅への想いを新たにしたのだ。