カソリの「宮本常一研究」(12)
第7回目でふれた宮本常一先生の奥様が8月5日に亡くなられた。享年97歳。長年にわたって宮本先生を支えられた奥様だった。
宮本先生ご夫妻には仲人をしていただいたこともあって、奥様には何かとご心配をいただいた。3人の子供たちが産まれるたびに、
「すこやかな成長を祈っていますよ」
といったお葉書やお手紙をいただいた。
我が夫婦は結婚してから2年後の1977年6月、生後10ヵ月の長女を連れてアフリカに旅立った。列車でシベリアを横断し、ヨーロッパを南下してアフリカ大陸に渡り、サハラ砂漠を縦断した。
そんな赤ん坊連れの旅の出発前に、宮本先生のご自宅を訪ねた。
長女は人一倍人見知りの激しい子だったが、先生の手にかかると泣きもせず、うれしそうにしている。奥様は先生は昔から子供をあやすのがとてもお上手だったといっておられた。
我々は赤ん坊を長い厳しい旅に連れていくということで、周囲からはずいぶんと反対されたが、宮本先生は違っていた。
反対するどころか、
「日本と同じようにヨーロッパにもアジアにもアフリカにも子供たちはいる。そこで生まれ、大きく育っているのだから、そう心配することはない。子供のペースに合わせて旅することだ。旅する中で子供を育てていけばいい」
といって励ましてくださったのだ。
先生のそのお言葉がどれだけ我々の支えになったことか。
先生のかたわらでは、奥様が先生のいわれる一言、一言をメモ帳に書きとめておられた。そんな奥様の姿が印象的で、今でもはっきりと目に残っている。
宮本先生の奥様のご冥福を心より祈っています。