賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの林道紀行(28)関東編(その6)

中津川林道(埼玉・長野)

(『バックオフ』2005年12月号 所収)

秩父から千曲川の源流へ

 荒川沿いの秩父盆地は独立したひとつの世界。まわりを山々に囲まれ、どこにいくのにも峠を越える。秩父は「峠越え」の絶好のフィールドなのだ。

 そんな秩父には関東でありながら、関東とも違う独特の文化が色濃く残されている。

 秩父の各地をめぐり、最後に奥秩父から中津川林道に入り、17・2キロのダートを走破して埼玉・長野県境の三国峠を越えた。武蔵・上野・信濃三国境の三国山南側の峠。三国峠を越え、信州側を下っていくと、そこは「信州の母なる流れ」千曲川の源流地帯だ。

ダート距離が変わらない! 

 関越道の花園ICが今回の旅の出発点。国道140号で荒川沿いに走り、秩父盆地に入っていく。秩父では12月3日の「秩父の夜祭り」で有名な秩父神社に参拝。このあたりが秩父の中心地だ。「秋蚕(あきご)しもうて麦まき終えて 秩父夜祭り 待つばかり」の「秩父音頭」ではないが、この地方の人たちは豪華絢爛な山車が市内を巡る夜祭りを心待ちにしている。

 次に「秩父34番札所巡り」4番札所の金昌寺に参拝。1000体といわれる無数の石仏が境内を埋めつくしている。秩父路では白装束に身を包んだ巡礼者によく出会う。西国33番、坂東33番、秩父34番を合わせて、「日本百観音霊場」といわれているが、ぼくもいつの日か、バイクでの「巡礼旅」をしようと思っている。

 秩父路には何湯かの温泉があるが、山間の柴原温泉に行き、「柳屋」の湯に入った。ここは昔の「秩父七湯」のひとつ。檜の露天風呂にどっぷりとつかった。湯から上がり、宿の主人に話を聞くと、アライヘルメット社長の新井さんがご夫妻でよく来られるとのこと。思わず新井さんのお顔が目に浮かび、秩父の秘湯宿でバッタリ出会ったような気分になった。

 奥秩父の大滝からは山岳信仰の三峰山に行った。

 白岩山から雲取山、飛龍山へとつづくまさに「関東の屋根」といった山並みを一望する。日本武尊をまつる三峰神社に参拝。伝説によると日本武尊雁坂峠から狼に案内されてこの地にたどり着いたという。ということで三峰神社狛犬は狼。境内のあちらこちらで様々の表情の狼を見た。

 秩父最奥の栃本に立ち寄ったあと、荒川の支流、中津川沿いに走る。紅葉で名高い中津峡の渓谷美を眺め、中津川の集落を過ぎたところで待望の中津川林道に入っていく。

 ぼくが初めてこの林道を走ったのは1970年。そのときは有料林道で入口には料金所の小屋があった。それ以来、この35年間に何度、中津川林道を走ったことか。

 冬期閉鎖の直前に行って、大雪と格闘し、三国峠を越えたこともある。中津川林道でうれしいのは、路面が整備されて走りやすくなってはいるものの、昔も今もダート距離がほとんど変わらないこと。それだけに17・2キロのダートを走破し、埼玉・長野県境の三国峠に到達したときの喜びは大きい。

 三国峠を越えると川上村の大深山から馬越峠を越えた。

 さらに県道124号で長野・群馬県境のぶどう峠を越え、国道299号で群馬・埼玉県境の志賀坂峠を越えて秩父に戻った。それは最高におもしろい「峠越え」ルートだった。