賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの林道紀行(26)関東編(その4)

北関東の林道走破行

(『バックオフ』2000年10月号)

 茨城県北部から福島県にかけた北関東の一帯は、知られざる林道の宝庫。飛び抜けて長い林道はないが、ダート10キロ前後の林道が何本も走っている。それら北関東の林道群を「みちのく5000」の名コンビ、カソリ&ブルダスト瀬戸が走りまくった。

 ニューモデルDR400ZSのカソリとDJEBEL250GPSのブルダスト瀬戸は東京から常磐道を北へ、福島県に入ったいわき勿来ICで高速を下りる。東京からここまで150キロほど。東北の玄関口、勿来まではきわめて近い。奥州三関のひとつ、勿来関跡に立ち、そこを出発点にして、さっそく第1本目の林道、横川目兼林道に入った。

 茨城県との県境スレスレぐらいのところを走るダート8・3キロの横川目兼林道にひきつづいて、ダート3・0キロの藤ノ木沢林道を往復し、ダート7・4キロの四時川林道を走りつなぎ、いったん国道289号に出た。ここまででダート21・7キロだ。

 国道沿いにある「レストラン四時川」で昼食を食べ、仏具山の山頂近くを通るダート11・2キロの横川仏具山林道、ダート7・3キロの弥太郎林道を走りつなぎ、さきほどのルートとクロスし、福島県から茨城県に入り、県道27号に出た。これら5本の林道をからめた“林道クロス”でダート距離は40・2キロになった。まずは北関東林道走破行の第1セクション、終了だ。

 北茨城の大津漁港に通じる県道27号で花園渓谷を走り、花園神社を参拝。この花園神社を拠点にして、ダート8・8キロの柳沢林道、ダート5・8キロの大金田林道、ダート6・6キロの花園林道と、3本の林道をつないだ一周コースを走る。これら3本のダートの合計は21・2キロ。これで第2セクション終了。

 花園神社から県道27号を西へ、ふたたび福島県に入り、国道349号経由で湯岐温泉に行った。ここの混浴の共同浴場の湯はいい。林道激走の疲れがスーッと抜けていく。湯岐温泉からダート1・3キロの湯岐前林道を走って今晩の宿の志保ノ湯温泉へ。山中の一軒宿の温泉。

 林道を走っていく温泉というのは、我らオフロードライダーには絶対のおすすめ。宿の湯につかったあとは、ブルダスト瀬戸と冷えたビールで「乾杯!」を繰り返す。これが、たまらないんだなあ~!

 第2日目は、志保ノ湯温泉を出発すると、湯岐前林道で湯岐温泉に戻り、国道349号から入っていく道幅の狭いダート3・4キロの金沢入宝坂林道で矢祭の町へ。JR水郡線の東舘駅前に立ったあと、阿武隈山地の稜線上を通るダート11・1キロの板庭入宝坂林道を走った。その途中では、分岐するダート2・0キロの原木沢林道を往復。この第3セクションの林道群のダート合計は19・8キロになった。

 第3セクションの矢祭周辺の林道群を走り終えると、国道118号で棚倉へ。ここには奥州の一の宮、八槻都都古別神社と馬場都都古別神社の2社がある。それら2社を参拝。そして国道289号に近い一軒宿の温泉、常世温泉に行き、湯につかったあと、温泉宿で昼食にした。阿武隈の名瀑、江竜田の滝を見たあと、棚倉の町に戻った。

 一の宮あり、温泉あり、名瀑ありと、バラエティーに富んだおすすめポイントのある棚倉とその周辺だ。棚倉は久慈川河岸段丘上の町で、阿部氏6万石の城下町。町の中心に棚倉城跡がある。

 ここから八溝山周辺の第4セクションの林道群へ。久慈川の流れに沿って、さかのぼっていく。ダート県道の377号八溝線を走りながら久慈川源流部の渓流美を眺められる。その途中で大森林道に入り、6・1キロのダートを走りきったあと、県道60号で福島・栃木県境の戸中峠まで行った。

“峠のカソリ”、関東と東北の境の峠に立ち、感激の「万歳!」だ。

 ダート県道の377号八溝線に戻ると、6・9キロのダートを走りきり、稜線上に出る。そこは福島・栃木・茨城の3県境で、ちょっとした広場になっている。そこには福島の県木の欅、栃木の県木の栃、茨城の県木の梅が植えられている。そして茨城・福島県境の八溝山へ。標高1022メートルの八溝山茨城県の最高峰であるだけでなく、茨城県唯一の1000メートル峰なのである。

 山頂には延喜式内社にもなっている歴史の古い八溝嶺神社。入場料100円の展望台もある。そこからは阿武隈山地那須連峰、奥日光の山々を一望する。空気の透き通る秋になると、富士山も見えるという。

 八溝山頂近くから最後の林道、八溝真名畑林道を走った。ダート14・1キロ。今回走った林道の中では最長のダートコースだ。八溝山周辺の第4セクションのダート距離は33・2キロになった。

 こうして矢祭に戻り、カソリ&ブルダスト瀬戸、JR水郡線の東舘駅前でバイクを停め、そこを今回の旅のゴールにした。全部で15本の林道を走り、ダート距離の合計は115・7キロになった。わずか2日間で15本もの林道を走れたので大満足だ。

 最後にカソリ&ブルダスト瀬戸は東舘温泉の「ユーパル矢祭」の湯に入り、名所の矢祭山で名物のアユの塩焼きを食べ、国道118号を南へ。

 茨城県に入る。

 大子、山方、大宮と通り、矢祭から50キロの那珂ICで常磐道に入り、東京に戻った。

(林道編)

1・横川目兼林道(ダート8・3キロ)

常磐道のいわき勿来ICから林道入口までは、15キロほどでしかない。国道289号旧道の川部から入っていく。茨城県との県境のすぐ北を走る。途中で仏具山の南側の峠を越える。横川仏具山林道との分岐点、弥太郎林道との分岐点を過ぎ、横川に出る。

2・藤ノ木沢林道(ダート3・0キロ)

四時川林道の横川側の入口で分岐し、左折し、橋を渡って入っていく。名無しの峠を越え、弥太郎林道にぶつかる。四時川林道と弥太郎林道を結びつける林道だ。

3・四時川林道(ダート7・4キロ)

四時川の渓流に沿って走る。四時川の渓流美は見事だ。福島・茨城県境スレスレの林道。途中にはポツンと1軒、民家もある。夏場はクロアゲハやカラスアゲハ、アオスジタテなどの蝶が林道を乱舞する。最後の国道289号に出る区間は舗装路になった。

4・横川仏具山林道(ダート11・2キロ)

国道289号側から入っていった。その角には「おやじがんこそば」。この店の手打ちそばはうまい。最初のうちはダートと短い区間の舗装が混在。やがて仏具山に向かってかなりの勾配で登っていく。仏具山の山頂近くを通る。峠を越えると、横川目兼林道との分岐に向かって一気の下り。

5・弥太郎林道(ダート7・3キロ)

横川から入っていった。3・5キロ走った藤ノ木沢林道との分岐点まではかなり走りやすい整備された路面だが、そこから先は大荒れ。茨城県との境の峠までは深いギャップの連続。道幅も狭くなる。道の両側には木々の枝が覆いかぶさってくる。県境の名無し峠を越え、茨城県に入ると、じきに県道27号に出る。

6・柳沢林道(ダート8・8キロ)

花園神社の駐車場で道は二又に分かれるが、右が柳沢に通じる柳沢林道で、左が大金田に通じる花園林道だ。柳沢林道を行くと、じきに七つ滝の入口。滝までは山道を歩いて10分ほど。一見の価値あり。名無しの峠を越え、釣り堀のある柳沢に出る。

7・大金田林道(ダート5・8キロ)

県道111号から入っていった。ゆるやかな名無しの峠を越えるあたりで、茨城・福島県境一帯の北関東の山々を一望する。5・8キロのダートを走りきると、大金田の集落。趣のある山村の風景だ。

8・花園林道(ダート6・6キロ)

大金田の集落から入っていった。大金田林道との分岐を直進し、その先で右折すると、名無しの峠に到着。峠も分岐になっているが、ここでは左折。直進する林道は行き止まりになる。峠からは急勾配の下りで、一気に花園神社へ。

9・湯岐前林道(ダート1・3キロ)

湯岐温泉の道をそのまま奥に走って行くと、最後の民家を過ぎたところで短いダートの湯岐前林道に入り、志保ノ湯温泉に行ける。ダートを走っていく温泉というのがいいではないか。なお、志保ノ湯温泉への道だが、反対側の県道111号からの道は舗装路だ。

10・金沢入宝坂林道(ダート3・4キロ)

国道349号の入宝坂から入った。道幅の狭い草木のおい茂る林道。ちょっとした探検気分で走れる。3・4キロのダートを走り抜けるとT字路にぶつかるが、右へ行っても、左へ行っても、矢祭北側の国道118号に出る。

11・板庭入宝坂林道(ダート11・1キロ)

南の矢祭町側から入ったが、入口はちょっとわかりにくい。阿武隈山地の稜線上を走る。開けたところからは、久慈川の谷間を一望。途中で1ヵ所、崩落現場があったが、バイクならば通れる。

12・原木沢林道(ダート2・2キロ)

板庭入宝坂林道と分岐する短いダートの林道。この林道を下っても、県道27号に出られる。なお県境を越える県道27号と111号は、今回のエリアの中では重要なルートになるが、茨城・福島ともに同じ県道ナンバーである。

13・県道八溝線(ダート6・9キロ)

久慈川の源流沿いに走るダート県道の377号。このルートを走りながら眺める久慈川の渓流美は見事だ。久慈川というと、茨城県の川というイメージが強いが、源の八溝山からは棚倉、塙、矢祭と福島県内を流れ、それから茨城県へと入っていく。

14・大森林道(ダート6・1キロ)

ダート県道の377号八溝線から入っていった。名無し峠を越えて県道60号の戸中峠下に出る。すごく気分よく走れる。県道60号とのT字に出たら、左に折れ、関東と東北の境の戸中峠まで足を延ばしたらいい。

15・八溝真名畑林道(ダート14・1キロ)

八溝山の山頂近くから入った。八溝山周辺では最長のダートコース。最初は稜線上を走り、やがて谷間へと下っていく。林道を走り抜けたところが真名畑の集落で、特産のコンニャク畑が目を引いた。

(温泉編)

1・湯岐温泉

山形屋」と「和泉屋」、「井桁屋」の3軒の温泉旅館。ここの共同浴場はいい。すぐ前の「山形屋」で入浴料300円を払って入る。混浴の湯。温めで長湯できる。湯にはぬめりがあり、肌がツルツルする。すぐ近くには新湯岐温泉の「湯岐山荘」(入浴料500円)。塙町の町営温泉施設「湯遊ランドはなわ」(入浴料は平日は800円、休日は1000円、17時以降は半額)もある。

2・志保ノ湯温泉

湯岐温泉からダート1・3キロの湯岐前林道を走ったところにある山中の一軒宿(入浴料700円)の温泉。ホッとひと息つける豊かな自然に囲まれた宿。静寂を絵に描いたようなところだ。湯はひと晩中、流れ出ていて、夜中でも入浴できるのがいい。朝湯にも入れる。宿泊は1泊2食8000円から。電話0247-43-1273

3・常世温泉

国道289号から北に2キロほど入ったところにある山間の一軒宿(入浴料500円)の温泉。赤松林に囲まれた純日本風の温泉宿。ここは別名“乙姫の湯”。美肌の湯として知られている。木の湯船で、庭園を眺めながら気分よく入れる湯だ。宿泊は1泊2食8000円から。電話0247-43-1054

4・東舘温泉

矢祭町の中心、東舘にある温泉。久慈川の流れの近くに町営温泉施設の「ユーパル矢祭」(入浴料は平日は700円、休日は1000円、17時以降は500円)がある。大浴場には泡湯や打たせ湯。サウナもついている。露天風呂あり。宿泊も可能で、平日の1泊2食の宿泊料金は8000円。土曜日と休日前は9500円。電話0247-46-4300

(食事編)

1・第1日目朝食

常磐道中郷SAのレストランで、「豚汁定食」(410円)を食べた。高速道のレストランで食べるカソリの定番朝食。豚汁を食べると、パワーが出るのだ。

2・第1日目昼食

国道289号沿いの「田人おふくろの宿」に隣接した「レストラン四時川」で。「ザルそば」(600円)と「おふくろ定食」(1000円)を食べた。ぼくは“うどん党”で、そばとうどんを並べられたら必ずうどんを取る方なのだが、信州のようにそばのうまいところだと、無性にそばが食べたくなる。福島も同様で、ここはそばのきわめてうまいところ。うまいそばを食べるのには、ザルそばが一番だ。おふくろ定食にはとろろ汁だ出た。とろろで汁にとろみを出している。それと、味噌コンニャクがついた。茨城県北部から福島県南部の矢祭、塙にかけての一帯は、コンニャクは昔からの特産品だ。

3・第1日目の夕食

志保ノ湯温泉での夕食。湯から上がると、部屋に夕餉の膳を運んでくれる。窓から入ってくる気持ちのいい夕風に吹かれながら食べる温泉宿の夕食はなんとも趣のあるものだ。さすがに山中の温泉宿だけあって“山の幸”のヤマメの塩焼きが出たが、いわき市小名浜漁港もそう遠くないので、“海の幸”のマグロやホタテの刺し身もけっこう新鮮なものだった。

4・第2日目の朝食

志保ノ湯温泉での朝食。夕食同様、部屋に運んでくれる。朝食には納豆、卵、のりの3点セットがついたが、カソリ、ご飯を3杯食べる。朝食には目いっぱい食べるというのが、“カソリ流ツーリング”の仕方だ。

5・第2日目の昼食

常世温泉での昼食。気持ちいい木の湯船の湯から上がったあと、大広間で「旬のてんぷら定食」を食べた。ここでは“あかはら”と呼んでいる川魚はウグイのことだが、てんぷらにすると、バリバリッと骨ごと食べられる。それとシイタケやカボチャなどのほかに、ニンジンの葉やトウモロコシのひげのてんぷらも出てビックリ。

6・第2日目の夕食

名所、矢祭山下の国道118号沿いの店で、本場もの、久慈川でとれた天然アユの塩焼きを食べた。久慈川那珂川といえば、アユで知られた川だ。炭火で焼いた串焼きのアユのほかに、串焼きだんごもたべる。店のおばちゃんは「サービスよ」といってキュウリとナスの漬物をだしてくれたが、これがメチャうま。さらに田舎風味の煮物まで出してくれた。おばちゃん、ありがとう。

(名瀑編)

1・江竜田の滝

阿武隈山地第一の名瀑で、二見ヶ滝、素麺ノ滝、青葉ノ滝の3つの滝から成っている。滝を目の前にする茶屋の「じゅうね・ぼた餅」はうまかった。“じゅうね”とは“ジュウネン”で、エゴマのことだ。国道289号から1キロほど入ったところにある。

一の宮編)

1・八槻都都古別(やつきつつこわけ)神社

2・馬場都都古別(ばばつつこわけ)神社

棚倉にあるこれら2つの神社は、ともに奥州の一の宮。八槻都都古別神社は棚倉の南、国道118号沿いにある。馬場都都古別神社は棚倉の町に近い県道60号沿いにある。伝記によると日本武尊(やまとたける)軍は東征の折り、この地に陣を張り、八溝山を拠点にしていた夷(えびす)軍と激しい戦いを繰り返した。そのときに味秬高彦根あじすきたかひこね)神が現れ、その力を得て日本武尊軍は夷軍を打ち破り、この地を平定した。大和朝廷がみちのくの一角に楔(くさび)を打ち込むことができた歴史的な瞬間だ。両社は味秬高彦根神をまつっている。もう1社、棚倉の北の石川に石都都古別(いわつつこわけ)神社があるが、ここも奥州の一の宮になっている。

(スズキDR-Z400S)

 今回の北関東林道走破行では、じつにうまい具合に「高速編」、「林道編」、最後に「一般道編」という3タイプのステージを走ることができた。その結果、DR-Z400Sをひと言でいうと、燃料タンクの“DUAL SPORT”のロゴどおりで、オン、オフともにじつにおもしろく走れる。4ストにもかかわらず、2ストに乗っているような気分にもさせてくれる楽しいバイクだ。

 まずは東京から常磐道でいわき勿来ICまで走った。この「高速編」では、楽に120キロ巡航ができた。さすが400㏄、250㏄に比べると、150㏄分の余裕がある。この余裕が高速走行をきわめて楽なものにしてくれる。

 じつは今回の「北関東林道走破行」の前に、東京から九州・熊本の人吉まで、DR-Z400Sで1300キロ以上の高速道一気走りをした。アクセルに余裕があるので、オフ車にとって苦手の高速道一気走りもきわめて楽で、東京から人吉ICまで16時間ほどで走りきってくれた。

 今回、いわき勿来ICで高速道を下りると、次から次へと関東と東北の境目一帯の林道群を走破していったが、一歩、舗装路からダートに入ると、DR-Z400Sのすごさをまのあたりにする。乾燥重量が129キロということだが、それよりもはるかに軽く感じられる。なんとも不思議なのだが、乗った感じでは111キロのDR250Rや115キロのXR250よりも軽く感じられるほどで、400㏄のオフローダーに乗っている感覚ではないのだ。

 この軽快感とスリムな車体、スリムなシートのおかげで、ダートでのマシンのとりまわしがきわめて楽なものなる。

 それを一番、実感したのは弥太郎林道の荒れた区間。けっこう深いギャップが連続したが、あまり路面の状況を気にすることなく走れた。これら深いギャップ群をDR-Z400Rは、マシンの力で平気でクリアーしていくのだ。なにか、自分が急速にダートランがうまくなったかのような錯覚すら覚えたほどだ。

 さすが“400”と思わせたのは、今回、走った15本の大半の林道で峠を越えたが、峠の登り勾配ではパワーを上げ、一気に峠を越えていくことができた。

 すごい!

 最後に、全部で4回、燃費を計測したが、その結果をお伝えしよう。

「高速編」リッター21・4キロ

「林道編」リッター17・0キロ

「林道&一般道編」リッター19・1キロ

「一般道編」リッター24・5キロ

(DR-Z400Sの各パート)

1・車体

DR-Z400Sにまたがり、ハンドルを握った瞬間、まず感じるのは、そのスリムさだ。このあたりがレーサーのDR-Z400ゆずいのいいところなのだろう。そぎ落とせる部分はすべてそぎ落としたという感じなのだ。アスファルトから一歩、ダートに突入したとき、この車体のスリムさのおかげで、まるで蝶が舞うかのように、林道を自由自在に駆け抜けられる。それとスリムなバイクに乗ってダートを走ると、何か、闘争心に火がつけられたような高揚した気分をも感じる。このスリムな車体のおかげで、ダートとは全然、関係ないのだが、常磐道へとつづく首都高の渋滞のスリ抜けがすごく楽だった。

2・エンジン

スズキ車でいうと、4ストのDR250Rと2ストのRMX250Sを足して2で割ったようなエンジンの感性だ。もちろん250㏄に比べると、はるかにハイパワーな400㏄なので、峠の登りや高速道での一気の追い越しのときに、いかんなくそのパワーのすごさを見せつけられる。それでいて水冷エンジン特有の穏やかさというか、粘りの強さもあって、ロングツーリングなどの連続走行でも、穏やかな気分で乗りつづけられる。レーサーのDR-Z400と比べると、パワーは抑えられているとのことだが、オフロードツーリングに使う分には十分すぎるくらいのパワーを持ったエンジンだ。

3・タイヤ

タイヤのパターンはオン・オフ両用のデュアル・パーパスなのだが、どちらかというと、オン寄りに振っている。それだから、高速道路での高速走行がよけいに楽だったのだろう。だが、ごく普通の路面状態の林道ならば、このパターンのタイヤでも何ら問題はない。渓流沿いの水溜まりがつづいた四時川林道で、ちょっと滑るかなと感じた程度である。今回の北関東林道走破行でもわかるように、1本の林道のダート区間が10キロ程度というのは、なにもこのエリアに限ったことではなく。ほぼ日本中、どこに行っても同じこと。10キロ程度のダートを抜ければすぐに舗装路なので、それを考えれば、このオン寄りに振ったタイヤのパターンで十分な気がする。

4・メーター

昨年の「日本一周4万キロ」を走ったDJEBEL250GPSバージョンと同じ使いなれたメーターなので、まったく違和感はなかった。トリップメーター、クロックなどのついたデジタルのメーターだ。モードの切替えもスムーズで、何ら問題はない。今回、北関東林道走破行の1本ごとのダート距離を克明に計ったが、その際、A、Bの2つのトリップメーターがあるので、ダート距離をきわめて計測しやすかった。

5・ヘッドライト

今回の「北関東林道走破行」の最後は、福島県の矢祭だった。そこで温泉に入り、名産のアユを食べると、日が暮れた。ナイトランの開始だ。DR-Z400Sのヘッドライトは見るからに小さく、頼りなさそうに見えたが、実際に国道118号を南下し、水戸に向かって走っていくと、35/36・5Wのハロゲンタイプのライトは思った以上の威力を発揮してくれた。小さくても、けっこう明るいというのがぼくの印象だ。

(カソリの装備)

(ウエア編)

ジャケット、ジャージ、パンツと上、中、下ともに、ブルーを基調としたゴールドウイン製でビシッと決めた。ブルーが2000年のカソリカラー。

1・ジャケット

コンベクター・スーパーボルトジャケットのアズテックブルー。この深みのあるブルー・カラーがすごくいい。昨年、走った「チベット横断」のチベッタン・ブルーの空を思い出させる色。襟まわりがじつにうまく仕上がり、やわらかな肌ざわりになっている。ゴツゴツ感がないので、首をひんぱんにまわしても、すれるということがない。ちょっとぐらいの雨なら雨具もいらないほどの耐水性もある。スグレモノのジャケットだ

2・ジャージ

アメリカ・デュポン社の開発した高機能素材のクールマックスを使ったジャージ。その素材名のとおりで、驚くほどのクール感。サラッとしている。今回の「北関東林道走破行」は、2日とも、厳しい暑さで、大汗をかいた。それでもあまり不快感を感じなかったのは、このジャージのおかげだ。汗をすばやく吸い取り、それを溜め込むのではなく、外部に放出するというクールマックスの機能のなせる技だ。

3・パンツ

パンツはGSM3001のオフロードパンツにした。色はブルー。ジャケットのブルーとよく合う色あいだ。日が当たると、キラッと青く輝くところがなんともいえない。膝の部分(黒色)にはストレッチケブラーが使われている。その裏側はメッシュなので、膝の伸縮性にすぐれている。膝を自由に動かせないと、けっこう辛いものがる。そのオフロードパンツをブーツの中に入れるようなはき方をしたが、別に違和感はない。

(バッグ編)

今回はデイパック、ウエストバッグ、シートバッグと3種のバッグを使ったが、ウエア同様、3種のバッグともに“GSG”のゴールドウイン製だ。

1・デイパック

このデイパックの非常にすぐれている点は、重心を低くしているので、背負ってバイクにまたがると、ザックの底がスポッとリアシートにのることだ。そのため、ザックをかなりの重さにしても、肩にかかる負担がきわめて少なくなる。まさにロングツーリングには、うってつけだ。色はウエアの色と合わせたブルー系統のネービーだ。

2・ウエストバッグ

ザックを背負っても、すこしも邪魔にならない手頃なサイズのウエストバッグ。ぼくのツーリングに絶対に欠かせないものというと、メモ帳とボールペンがある。旅のメモ帳はすでに100数冊になるが、今回、このメモ帳とボールペンを小銭入れなどと一緒にウエストバッグに入れた。上々の使い勝手。バイクをちょっと停めて、ウエストバッグからメモ帳を取り出し、メモすることができた。

3・シートバッグ

リアシート幅にすっきり収まるサイズで、使い勝手がいい。容量は15リッター。簡単に装着できるし、ダブルファスナーで簡単に開閉できるし、取り外したときは手で持って歩ける。後ろに縫い付けられている“GSG”マークが、かなり目立つ夜間の“反射板”になっている。細かな心づかいだ。

(ヘルメット編)

ぼくはアライのヘルメットをずっと使っているが、昨年の「日本一周4万キロ」ではシルバーのVcross2を使った。今回の「北関東林道走破行」では、ウエア類と合わせたブルーのVcross2を使った。このVcross2のよさは、なんともいえない高級感で頭にやわらかくフィットすることだ。昨年の「チベット横断」ではアライのヘルメットに助けられた。ダートのギャップにはまり、30メートル吹っ飛び、顔面着地。吹っ飛んだバイザーがクッションになり、頭への衝撃がうすらいだ。首を強打し、ほとんど首を曲げられないくらいになってしまったが、アライのヘルメットのおかげで首の骨を折ることもなかった。このような万が一の場合に、ヘルメットの善し悪しがよくわかる。

(ブーツ編)

アライのヘルメット同様、オフロードではずっとGAERNEのブーツを使っている。昨年の「日本一周」ではエンデューローブーツのED-PROを使ったが、今回の「北関東林道走破行」もED-PROだ。はきやすいだけではなく、ぼくは絶対の信頼感をこのブーツに持っている。今年の春には、ED-PROに助けられた。「日本一周バイク旅4万キロ」の本が完成し、東京・神田の三省堂でサイン会が開かれることになった。その会場に向かう途中の国道246号で、すぐ右側の車が渋滞から逃れようと、急ハンドルを切って左折した。まったく避けきれずにそのまま衝突。ガシャン!とハデな音がした。車はベコンとへこんだが、ぼくもバイクもブーツのおかげでほとんど無傷。車とバイクの間にはさまったブーツがクッションの役目をしてくれたからだ。もしこのとき、スニーカーぐらいだっら、足首の骨を折っただけではなく、くるぶしの骨を砕いたことだろう。