賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

日本列島岬めぐり:第29回 瀬詰崎(せづめざき・長崎)

 (共同通信配信 1990年)

 名物のチャンポンと皿うどんを食べた長崎から国道251号で島原半島に入っていった。50ccバイクを走らせ、丸一日をかけて半島を一周。島原半島には心ひかれるものがった。

 雲仙岳西側の小浜温泉の湯につかり、島原名物の具雑煮を食べた。具がどっさり入っていて、数えてみると、全部で11種類もあった。小浜温泉から半島最南端の岬、瀬詰崎にかけてが最も島原らしい。

 国道251号を南下し、崖下を走っているときのことだ。台地上に登る細道が目に入った。すぐに国道を外れ、軽トラックが通れるぐらいの小道を登ってたどり着いた上の世界は、「あっ!」と驚くほどだった。下からではうかがい知れない島原人の生活の舞台になっていたからだ。

 段々畑は天に届かんばかりにつづき、1段1段の畑の境には、それこそ汗と涙の結晶のような石垣が築かれている。さらに小道を登りつめ、台地のてっぺんに立つと、天がぐっと近くなる。目の前の海には天草が浮かび、右に視線を移せば、島ひとつ見えない東シナ海の大海原が広がっていた。

 天草へのフェリーが出る口之津から瀬詰崎への道に入っていった。岬近くの漁村は亜熱帯樹のアコウが群生していた。サツマイモ畑が広がる台地がストンと落ちたところが瀬詰崎。有明海口の早崎瀬戸に突き出た岩礁の上に灯台が立ち、その向こうには天草下島がはっきりと見える。天草まではわずか4キロでしかない。

 早崎瀬戸は浅瀬が多く、潮の流れが速いので、昔からの海の難所。とくに大潮の満潮時や干潮時は潮流が段をなして押し寄せ、激しく渦を巻いて荒れ狂うという。