秘湯めぐりの峠越え(31)水分峠(その2・大分)
(『アウトライダー』1995年10月号 所収)
水分峠を越える!
“別府八湯”の温泉めぐりを終えると、豊後富士の由布岳山麓を通って湯布院に向かう。由布岳は濃霧の中にすっぽりと隠れ、まったく見えなかった。
由布岳山麓の峠を越え、由布院盆地を見下ろす展望台の狭霧台に立つころになると、やっと霧が途切れ、雨だけになった。いくら雨にぬれても、風景が見られるだけ、ありがたいというものだ。
由布院温泉(町名は湯布院だが、温泉名は由布院)では、共同浴場「乙丸温泉会館」の湯に入る。その入浴料というのは、入口にまつられている薬師如来の賽銭箱に100円を入れるようになっている。
由布院温泉の湯から上がると、
「雨なんかに負けるものか!」
と、気合を入れてDRにまたがり、水分峠に向かっていく。
R210に合流し、急勾配の峠道を登りつめ、標高707メートルの水分峠に到着。峠には、また一段と規模の大きくなったドライブインがある。ここで九重連山から阿蘇に通じる“やまなみハイウェー”が分岐している。
水分峠の峠名は、まさに峠そのものといった感じがするが、大分川と筑後川の“分水嶺”に由来している。峠を境にして、水が分かれるという意味で、川の流れが変われば、文化も変わる。峠はその大きな境目なのだ。
水分峠は同じ大分県の大分郡湯布院町と玖珠郡九重町(九重の山名は“くじゅう”だが町名は“ここのえ”になる)の境になっているが、その両郡名と同じ、大分川と玖珠川を分ける峠になっている。玖珠川は日田盆地で大山川と合流し三隈川となり、福岡県に入ると名前を変えて筑後川になる。利根川の“板東太郎”、吉野川の“四国三郎”と並び称される“筑紫二郎”で知られる九州最大の川。
水分峠を越えると、ゆるやかな下り。筑後川の水系に入ると、うれしいことに雨はやんだ。R210のアスファルトも乾いている。峠周辺の国道沿いでは、大分自動車道の建設が急ピッチで進められている。
玖珠川沿いの温泉めぐり
水分峠を越えたところで、玖珠川沿いの温泉めぐりを開始する。
第1湯目は、国道から数キロ北に行った龍門温泉。その途中に瑞巌寺の磨崖仏がある。なかなか見事なものだ。中央に不動明王、右に多門天と矜羯羅童子、左に増長天と制■迦童子が彫られている。磨崖仏というのは、自然の岸壁を利用し、その岩面に彫刻された仏像のことで、この近くでは臼杵の磨崖仏が有名だ。
龍門温泉は、名瀑の龍門滝の近くにある温泉で、温泉民宿「龍門」(入浴料300円)の湯に入った。湯から上がると、龍門寺の中の小道を歩き、龍門滝を見にいった。2段になって流れ落ちる見応えのある滝だ。
第2湯目は国道沿いの楠温泉「クリーンランド」の大露天風呂。ここは10年前に噴出した比較的新しい温泉だが、湯量は豊富。一大温泉ランドになっているが、露天風呂のみなら入浴料300円で入れる。
この楠温泉以降の温泉というのは、すべてR210沿いの温泉で、国道を走りながら、次々に止まっていくという感じで、“温泉ハシゴ旅”にはもってこいの、きわめて入浴しやすい温泉といえる。
第3湯目は滝瀬温泉(入浴料250円)。木の湯船。肌にやわらかな感触の湯。パーキングエリア風のところにある温泉で、食堂やみやげもの店が並んでいる。すぐ近くには、慈恩滝がある。
第4湯目は、JR久大線杉河内駅が目の前の、杉河内温泉「大門観光ホテル」(入浴料500円)の露天風呂。
第5湯目は、湯ノ釣温泉「渓仙閣」(入浴料500円)の露天風呂。
第6湯目は、玖珠川流域では最大の温泉地、天ヶ瀬温泉。ここでは、無料混浴露天風呂と入浴料100円の露天風呂「薬師湯」に入った。
露天風呂の連チャンとなったが、これら露天風呂はすべて玖珠川の河畔にあるもので、湯につかりながら、流れの速い玖珠川を眺めることができた。
こうして大分市内温泉から天ヶ瀬温泉まで、1日で16湯の温泉に入ったが、ぼくはみなさんに、1日で10湯以上の温泉に入る“温泉ハシゴ旅”をぜひともおすすめしたい。
温泉に入るのはけっこう疲れるし、入浴料やなんだかんだでお金もかかるし、時間もとられる。温泉の連チャンでフラフラになってバイクに乗っているときなど、
「温泉はもう、たくさん‥‥」
と、思うこともある。
だが、それを乗り越えてさらに温泉に入りつづけると、湯治以上の湯治とでもいうのか、体の具合はすごくよくなり、気分も最高によくなり、
「これ以上のツーリングはない!」
とまで思えるようになるのだ。
玖珠川の渓谷から日田盆地に入り、日田温泉で一晩泊まる。
翌日は、筑後路の温泉めぐり。筑後川温泉の「桑ノ屋」(入浴料300円)、吉井温泉の「咸生閣」(入浴料400円)、北川温泉(入浴料300円)の湯に入り、筑紫平野を貫くR210を走り、久留米に到着した。