賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

秘湯めぐりの峠越え(25)白布峠(山形・福島)

 (『アウトライダー』1995年8月号 所収)

秘湯・大平温泉

 米沢盆地の中に延びる道を突っ走り、米沢の市街地に入り、JR米沢駅前でRMXを止める。自販機のカンコーヒーを飲み、ホッとひと息つく。米沢駅近くのラーメン屋で、ぼくのツーリング食の定番、ラーメンライスを食べ、それをパワー源にして「福島→福島」の後半戦の開始だ。

 山形・福島県境の白布峠を越えていくのだが、その前に大平温泉に行く。米沢盆地から一気に吾妻山北麓の山中に入り、最奥の集落、大平へ。そこからさらに7キロ(半分はダート)を走り、駐車場にRMXを止め、最後は10分ほど歩き、秘湯・大平温泉に着く。一軒宿「滝見旅館」(入浴料500円)の、巨岩を組合わせてつくった露天風呂に入る。目の前の、激流が岩をかみ、白い渦を巻いて流れる最上川源流が迫力満点だ。

白布温泉の3軒の老舗旅館

 ふたたび米沢に戻ると、いよいよ白布峠へ。小野川温泉経由のルートを行く。

 米沢盆地から山中に入りかけたところにある小野川温泉は、平安時代初期の絶世の美女、小野小町伝説が伝わるほどの歴史の古い温泉。ここには共同浴場の「尼湯」(入浴料150円)がある。温泉情緒のある共同浴場で、入浴料は安く、入浴時間も午前7時から午後9時までと長く、立ち寄りの湯には絶好だ。

 小野川温泉から吾妻連峰の最高峰、西吾妻山(2035m)に向かって、グングンと高度を上げていく。福島県の高湯温泉のところでもふれたが、“奥羽三高湯”のひとつ、白布温泉に到着。西吾妻山北麓の海抜900メートルの高地にある温泉だ。

 白布温泉には、東屋、中屋、西屋という3軒の歴史の古い温泉宿がある。茅葺き屋根の、どっしりした構えの建物だ。そのうち、江戸時代の文政年間(1818ー1830)に建て替えられた建物がそのまま残っている「中屋本館」(入浴料300円)の湯に入った。湯量豊富。泉質は硫化水素泉。高、中、低温と、3つの木の湯船がある。大浴場の湯につかり、さらに、打たせ湯に打たれた。

 白布温泉からさらに高所に登りつめた新高湯温泉に行く。海抜1120メートル。そこまでの距離は2キロほどだが、一部ダートの道は、急崖をよじ登っていくかのような急勾配だ。一軒宿「吾妻屋旅館」(入浴料400円)の露天風呂に入った。

白布峠越え

 新高湯温泉から白布温泉に戻り、有料の西吾妻スカイバレーで白布峠を目指し、さらに登っていく。吾妻連峰周辺の紅葉は見事。全山が赤や黄色に燃えている。

 山形・福島県境の白布峠に到着。西吾妻山の西側の峠だ。福島側の展望が抜群!足下には檜原湖が広がり、その向こうには磐梯山がそびえている。白布峠の下りは急勾配のワインディングが連続し、一気に檜原湖畔に下っていく。

 前方に磐梯山を眺めながら湖畔の道を走り、五色沼のわきを通る。川上温泉「さわや旅館」(入浴料500円)の湯に入り、日暮れが近づいたころ、猪苗代湖に近い猪苗代の町に着いた。