賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

秘湯めぐりの峠越え(23)栗駒峠(秋田・岩手)

栗駒峠の峠上の温泉

 十文字からは、来た道を引き返し、大森山峠下の成瀬温泉まで戻る。そこでR392と分かれ、R342で大森山峠よりもさらに南の栗駒峠に向かう。

 奥羽山脈の西側の山麓を走り、栗駒峠へと登っていく。

 秋田・岩手県境の栗駒峠は、秋田・岩手・宮城3県境にそびえる円錐状火山、栗駒山(1628m)の北側中腹の峠。標高1200メートル。この一帯は栗駒国定公園に指定されている。栗駒山は、別名、須川岳ともいわれる。

 栗駒峠には、北海道の塩狩峠の塩狩温泉や、岩手・秋田県境の巣郷峠の巣郷温泉と同じように、峠のま上に温泉がある。秋田県側には秋田須川温泉、岩手県側には須川温泉。ともに湯量の豊富な温泉で、峠はもうもうとたちこめる湯煙りにつつまれている。

 まず秋田側の秋田須川温泉(入浴料350円)の湯に入る。湯から上がると、峠のみやげもの店をのぞく。あけび細工などの民芸品を売っている。店先の何種ものキノコやリンゴ、カリンなどが、東北の秋を感じさせた。

 次に、県境を越え、岩手側の須川温泉(入浴料400円)の湯に入る。大浴場は入浴客で混み合っていたが、目の前にいる人の顔さえ見えないほどの湯煙りだった。以前は混浴の千人風呂だったとのことだが、今は男女別に分けられている。須川温泉の泉質は緑ばん明ばん泉。天然蒸し風呂も有名だ。

 栗駒峠周辺は、すでに紅葉も終わり、木々の葉は落ち、冬枯れの風景を見せていた。

 東北の奥羽山脈横断の峠越えルートは、冬期間、閉鎖されるところが多い。さきほどの大森山峠は11月下旬に閉鎖され、開通するのは、5月中旬のことである。この栗駒峠も同様で、11月上旬には閉鎖され、開通するのは、5月中旬から下旬のこととなる。

 奥羽山脈は、まさに太平洋側の奥州と、日本海側の羽州を分ける自然の大障壁となっている。一年中、奥羽山脈を越えられる峠は、限られた峠でしかない。冬期間でも、奥羽間を自由に行き来できる峠道というのは、東北人の悲願になっている。

R342沿いの温泉めぐり

 栗駒峠は岩手県一関市と秋田県東成瀬村との境の峠。秋田県側から岩手県側に入り、一関の市街地に向かって峠を下っていく。

 峠の上ではすでに紅葉は終わっていたが、峠を下っていくにつれて、紅葉前線に追いついたとでもいうのか、まだ紅葉の最中で、赤や黄に染まった山々の風景が目を楽しませてくれた。道路上には、敷きつめられたように、落ち葉が落ちていた。

 栗駒峠を下ると、峠下のR342沿いの温泉めぐりの開始だ。

 第1湯目は、真湯温泉。

 北上川の支流、磐井川最上流の、一軒宿の温泉だ。すっかり近代的な設備に生まれ変わったクアハウス風「真湯山荘」(入浴料300円)の露天風呂に入る。真湯温泉は、古くからの湯治場として知られ、須川温泉の“直し湯”などともいわれた。

 第2湯目は、祭畤温泉。

 祭畤山(990m)の山麓に湧く一軒宿の温泉。「祭畤温泉有朋亭」の「遊湯館」(入浴料300円)の湯に入る。祭畤とは古代中国の伝説上の五帝が祭事を行い、遊ぶ庭だとのことで、祭畤山はこの地方の霊山になっている。祭畤温泉は昭和61年10月に発見された自噴温泉。「遊湯館」は公衆温泉浴場になっており、地元の人たちにも親しまれている。木をふんだんに使った浴室で、湯船も広々としている。

 第3湯目は、奥厳美温泉。

 ここも一軒宿の温泉で、「奥厳美温泉有朋亭」(入浴料300円)の湯に入った。昭和63年2月に掘り当てた温泉で、祭畤温泉とは同じ会社の経営だという。

 第4湯目は、矢びつ温泉。

 ここもやはり一軒宿の温泉だが、入浴のみは不可。残念ながら入れなかった。

 第5湯目は、厳美渓温泉。

 ここには3軒の温泉宿があるが、3軒とも、入浴のみは不可。R342の温泉めぐりの最後で2湯連続で入れなかったのは、なんとも後味の悪い結末だったが、これも仕方のないこと。温泉というのは、その場所に行けば入れるというものではないのだ。

 気分を晴らす意味もあって、RMX250Sを降り、名所の厳美渓を汗を流して歩きまわった。観光客が大勢来ていた。磐井川が川床の石英安山岩質の凝灰岩を浸食し滝や瀞、甌穴をつくりだしている。そんな厳美渓の渓谷美を堪能するのだった。

 厳美渓を後にし、一関に出、一関ICから東北道を一路、福島へと南下していった。