賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

秘湯めぐりの峠越え(21)発荷峠(青森・秋田)

(『アウトライダー』1995年6月号 所収)

絶景峠の発荷峠なのだが…

 十和田カルデラの滝ノ沢峠を越え、キャンプ場のある滝ノ沢からは十和田湖の湖畔を走る。R103にぶつかったところで、今度はR103(十和田街道)の発荷峠を登っていく。日本有数の紅葉の名所の発荷峠だが、ザーザー降りの雨に降られっぱなしなので、紅葉も、美しい十和田湖の湖の風景も楽しむ余裕はまったくないない。

 スズキRMX250Sのハンドルにしがみつくようにして、やっとの思い出標高631メートルの発荷峠にたどり着いた。

 ここでは、滝ノ沢峠のように、ミゾレまじりの雨にはならなかった。それが70メートルほどの高さの違いなのだろう。

 ところで十和田湖は、十和田カルデラのカルデラ湖。湖のまわりをぐるりと外輪山がとりまいているが、滝ノ沢峠も、この発荷峠も、十和田カルデラの外輪山の峠。カルデラ湖に対して、カルデラ峠(そのような言葉はないが)といってもいいほどなのである。そのほかの十和田カルデラの峠というと、見返峠や鉛峠がある。

 カルデラとはよくいったもので、スペイン語で釜を意味するが、十和田湖はまさに釜の底に水が溜まってできた湖である。北海道の摩周湖や九州の池田湖などとともに、日本の代表的なカルデラ湖になっている。十和田カルデラの外輪山をぶち破り、十和田湖から流れ出る唯一の川が、渓流美で知られる奥入瀬川である。

 雨に濡れながら、発荷峠の展望台に立つ。十和田カルデラ外輪山の展望台のなかでは、最高といってもいい発荷峠だが、この雨ではどうしようもない。

「クソーッ」

 と、腹立たしい気持ちで発荷峠を越え、鹿角市に入り、大湯温泉へと下っていった。

大湯温泉の4湯の共同浴場

 その夜は、大湯温泉の「大湯ホテル」に泊まった。ずっと雨にふられっぱなしだったので、温泉のありがたさが身にしみる。ほんとうに生き返るような思いだった。

 夕食には秋田名物のきりたんぽ鍋を食べ、そのあとは大湯温泉にある共同浴場(入浴料120円)を「川原の湯」、「下の湯」、「上の湯」、「荒瀬の湯」という順にハシゴ湯した。

 翌日は雨も上がり、青空が顔をのぞかせている。

 大湯温泉に近い大湯環状列石(ストーンサークル)を見、鹿角市の中心、花輪まで行き、JR花輪線の陸中花輪駅前に立った。

 そこを滝ノ沢峠、発荷峠越えの「黒石-花輪」のゴールにした。