賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

韓国食べ歩き:第2回

 (『あるくみるきく』(1987年1月号 所収)

ソウルの焼肉店

 私たちは夕暮れの街に出かけていった。まずは夕食だ。

 鼻を利かせて何軒もの食堂をのぞいてまわったが、すこしでもおいしそうな店、すこしでも雰囲気のよさそうな店…をと探しまわる神崎さんの熱意はたいへんなもので、店を探しまわるだけで1時間を費やした。

 その結果、私たちが入った店は、焼肉専門店。韓国といえば「焼肉」というイメージが潜在的にあり、その結果での選択だったのかもしれない。

 プルコギを注文した。

 プルコギは「火肉」、つまりは「焼肉」を意味している。とはいってもプルコギといえば、ロースなどの牛の赤身にかぎられているようだ。

 膳に出てきたのはそのような肉。

 中央が盛り上がり、周囲が窪み、外側に縁のついている鉄鍋を熱し、その上にタレをつけた薄切りの赤身の肉をのせて焼く。給仕の女性が食べやすいようにとハサミで肉を切ってくれる。

 焼けたところをみはからって、肉をチシャの葉にのせ、さらに生のニンニクをのせ、コチュジャン(トウガラシ味噌)をつけ、葉でくるんで食べるのである。チシャのほかにはもう1種、シソの葉に似たエゴマの葉も使う。

 焼肉とチチャやエゴマの葉とニンニクの味が口の中でからみ合い、ピリリと辛いコチュジャンが、そのからみ合った味にアクセントをつけてくれる。

 日本でも韓国風焼肉店があちこちにできているが、このような食べ方は一般的にはなっていない。また日本との大きな違いは、食べ方だけではなく、肉の量がはるかに多いということだ。

 ソウルの焼肉店で私は「おもいろい!」と思った。

 韓国から伝わってきた焼肉料理だが、日本人はそれをそっくりそのまま受け入れるのではなく、日本風にアレンジしてしまうことだ。

 さらにいえば中国料理からはラーメン、インド料理からカレーライス、イタリア料理からスパゲティー、イギリス料理からサンドイッチ、アメリカ料理からハンバーグを取り入れ、それぞれ日本風にしてしまったのと同じように、韓国料理からは焼肉を取り入れた。

 そのため韓国料理というと焼肉料理ということになりがちで、韓国人はいつも肉ばかり食べているといった間違った見方をしがちだ。

 プルコギを食べながらチンロ(真露)を飲んだ。チンロは25度の焼酎で、甘口の酒。このほどよい甘さが、トウガラシやニンニクの辛さとほどよく調和するのだった。

 ほろ酔い気分の頬には、夏の夜風が心地よい。私たちは夜風に吹かれるままに、ネオンのまばゆい歓楽街を歩きまわるのだった。