賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

「鵜ノ子岬→尻屋崎2012~2018」(14)

■2013年3月10日(日)晴「白米鉱泉→いわき遠野」175キロ

 3月10日。白米鉱泉「つるの湯」の朝湯に入り、朝食を食べ、7時30分に出発。いわき勿来ICで常磐道に入り、スズキの250ccバイク、ビッグボーイを走らせ、いわき湯本ICへ。ここで『U400』編集長の谷田貝さんとカメラマンの武田さんに落ち合った。今日は『U400』(5月号)の取材で、「いわき遠野」の林道を走るのだ。こうしてビッグボーイでの「林道走破行」第2弾目、「いわき遠野編」が始まった。

 ところで東北には2つの「遠野」がある。岩手県の遠野と福島県の遠野でともに「林道の宝庫」という共通点がある。福島県の遠野は勿来同様、いわき市内にある。常磐道のいわき湯本ICから10分ほどで着くいわき遠野は、林道ツーリングには絶好のエリアなのである。

 3月上旬というと、日本各地の林道はまだ深い雪に埋もれているが、さすが「東北の湘南」のいわき市だけあって、いわき遠野の林道群に雪はほとんどない。たまに残雪の林道に出くわすと、適度に面白く雪中ランをできるので、いいことずくめなのだ。

 折松の集落から入っていく折松・硯石林道を第1本目にして全部で5本の林道を走ったが、それら5本の林道はすべてつながっている。ダート走行だけにこだわってルートを選択すれば、50キロ超の連続ダートが可能になる。

 いわき遠野は岩手県の遠野と同じように民話の宝庫。「カッパ伝説」が伝わり、いわき遠野版の「遠野物語」もある。上遠野には中世の山城跡が残されている。民俗・歴史的にみてもじつに興味深い。

 いわき遠野は入遠野と上遠野の2つの地区から成っている。我々が目指すのは入遠野。常磐道のいわき湯本ICから県道14号を行くと、上遠野の町並みを通り過ぎたところで県道20号との分岐に出る。右折して県道20号を北へ。清流の入遠野川に沿った道になる。アユで知られる入遠野川にはアユの簗場があるほど。そのすぐ先には温泉宿の「中根ノ湯」がある。ここは入浴のみも可。いわき湯本ICから10キロほど走ると入遠野の町に到着。ちょっとショックだったのは1年前にはあった旅館兼食堂がなくなっていたことだ。この入遠野の町がいわき遠野の林道走行の拠点になる。

まずは第1本目の折松林道へ。来た道を戻り、左折して折松の集落へ。そこから折松林道に入っていく。しばらくは舗装林道がつづくが、林道入口から2・5キロ地点で待望のダートに突入。そこから1・1キロ地点の分岐を左折し、ゆるやかな山並みの稜線近くを通っていく。展望ポイントからは入遠野の田園風景を見下ろす。折松林道では何度か猪に遭遇している。かわいらしいウリ坊に出会ったこともある。ダート5・9キロの折松林道を走り切ると、硯石林道とのT字路に出る。ここを右折。硯石林道を1・7キロ走ったところが鶴石山林道との分岐。直進が鶴石山林道で、硯石林道は左に折れる。

 以前はこの分岐から先はかなりラフなダートだったが、今ではすっかり整備されて走りやすくなっている。鶴石山林道との分岐から2・5キロ走るとT字路に出る。そこが硯石林道の終点。折松・硯石林道のダート距離は10・1キロ。我ら「林道派」にはうれしい10キロ超のロングダートだ。

 硯石林道の終点は渓流にかかる橋。橋を渡ったところでT字路に出る。右が官沢林道で左が盤木沢林道。まずは右折し、官沢林道に入っていく。ゆるやかな登りのストレートな区間がつづく。ここではビッグボーイでの快適なダートランを楽しめる。路面はほどほどにラフ。自由自在に山中を駆け抜けていく気分がたまらない。この一帯は林業地帯で杉の植林も多く、盛大に杉花粉を飛ばしているが、山中に入ると花粉症のきつい症状がそれほど出なくなるのが不思議だ。峠に近づくと状況は一変。北側斜面のコーナーは残雪に覆われている。雪中ツーリングの開始。ここではビッグボーイの足着き性の良さにおおいに助けられた。両足ベタ着きですこしづつ登っていく。アイスバーン区間は何とも走りにくい。ビッグボーイのタイヤのパターンがロードに振ってあるのでツルツル滑ってしまうのだ。路肩に逃げ、雪と草地の境目を走ったが、それでも何度かスタックし、ヒーヒーハーハー肩で大きく息をする。そんな難関をついに乗り切り、峠に到達。峠のゆるやかな下りの残雪は難なく突破し、官沢林道の5・2キロのダートを走りきって舗装路に出た。

 官沢林道を走り切るとT字の舗装路に出る。このT字路を右に行けば国道49号のいわき三和に出る。いわき三和も林道の宝庫で網の目状に何本もの林道が走っている。その大半はこの舗装路と県道135号の間に集中している。

 さて官沢林道終点からはT字路の分岐を左へ。狭路の舗装路を走り、県道20号に出る。遠野トンネルの近くだ。県道20号はいわき遠野の林道走行では一番、重要なルートになるので、しっかりと頭に入れておかなくてはならない。県道20号に出ると左へ。入遠野方向に1キロほど走ったところが、第4本目の盤木沢林道の入口になる。県道20号のヘアピンカーブから林道に入っていく。林道の入口からダートなのがうれしい。盤木沢の谷を右手に見ながら走るが、樹林に隠れて深い谷は見えない。この林道の周辺には落葉樹が多い。3月の初旬だと冬枯れの風景だが、5月になると新緑がまばゆいほどに輝く。夏の深緑、秋の紅葉も目に残る。盤木沢林道は官沢林道の南側になるが、官沢林道のような残雪の区間はまったくなかった。ちょっとした高度の違い、方角の違いによって雪はずいぶんと違ってくる。盤木沢林道の3・5キロのダートを走りきり、硯石林道、官沢林道、それと盤木沢林道の3本の林道の合流地点に戻ってきた。

 盤木沢林道、官沢林道、硯石林道の3本の林道の合流地点から、硯石林道に入り、2・5キロ走ると、鶴石山林道との分岐点に出る。ここを左折し、鶴石山林道に入っていく。林道の入口は短い舗装路。すぐに二又の分岐になるが、左は牧場への道。鶴石山林道は右に入っていく。この分岐からダートが始まる。牧場に沿った稜線近くの道を行くと、やがて鶴石山(767m)が見えてくる。山頂には電波塔。鶴石山周辺からの眺めの良さが鶴石山林道の魅力だ。樹林が切れたあたりでビッグボーイを止め、牧草地の向こうに、幾重にも重なりあった阿武隈山地のゆるやかな山並みを眺めた。穏やかさを感じさせる風景。鶴石山の山頂周辺に雪はほとんどない。

 鶴石山から下っていくと、コーナーは短い舗装路になっている。日渡高野林道との分岐を過ぎ、二本川林道との分岐に出る。この分岐はT字路。右が鶴石山林道、左が二本川林道になっている。ところが右の鶴石山林道は崩落で通行止。そこでダート1・4キロの二本川林道を走り、高野の集落に出た。ダート8・0キロの鶴石山・二本川林道。分岐でそのまま鶴石山林道を走ってもやはりダート距離は8・0キロだ。県道20号から盤木沢林道→硯石林道→鶴石山林道→二本川林道と、4本の林道を走りつなぐと14・0キロのロングダートになる。

 国道49号に出ると長沢峠を越え、国道349号→県道20号で入遠野に戻り、「遠野」のオートキャンプ場で泊まった。谷田貝さんが作ってくれたキャンプ料理を食べながらおおいに飲み明かした。武田カメラマンとは一緒にサハラ砂漠を縦断し、生死を共にした仲間なので、「サハラ談義」で盛上がった。