『極限の旅』(山と渓谷社、1973年)その5
クウェッタからまる二日、クズダールに着くと、大きな市でもあるのだろうか、周辺のステップや砂漠からやってきたラクダに乗った遊牧門がたくさん集まっていた。
話に聞いたとおり、ここからベラまでが実にたいへん。まずバスの便がおそろしく悪いのだ。
「いつ、バスは出るんですか?」
「そうだな、たぶん三日後だろうね」
それも雨が降ったらだめだという。途中、川の中を通っていくので、雨が降ると走れなくなってしまうそうだ。
三日も待っていられないのでヒッチハイクしようかなと思ったが、なにしろクズダールから先は全くといってよいくらいに交通量がない。おまけに下痢はいっこうによくならず、ほとんど食べられない。そのため動きまわることもできず、なにすることもなしに、サライ(宿)のベッドで一日中ごろごろしていた。
やっとバスの出る日になった。喜びいさんでバスに乗ったのはいいが、ほんとうにひどい道、クズダールを境にして草が目につくようになる。雨が降ったのであろう、小さな水たまりも見られた。
乾燥地帯の道は雨に非常に弱い。川のそばを通っているときだった。バスが突然ガクッと左に傾く。ひっくり返るのでは、と思われるほどのすごさで、バスの壁にたたきつけられた乗客はギャーッとすさまじい悲鳴をあげた。
やわらかい地盤に、左後輪がめりこんでしまったのだ。泥だらけになりながら乗客全員で押したが、バスは微動だにしない。それではと、運転手のアスラムさんが厚い板を敷き、その上にジャッキを置いてバスを持ち上げようとした。ところが、地面がやわらかいので、板もろとももぐってしまう。その後もいろいろと無駄な抵抗を試みたが、時間だけがむなしく過ぎてしまった。
これじゃ、もうどうしようもないなと、なかばあきらめかけていると、驚いたことに道路工事用のブルドーザーがやってきた。いったいどこからやってきたのだろう。乗客は皆、わーっと大喚声をあげた。
アスラムさんには四人の助手がおり、そのなかの一人はバスがもぐってしまったとき、すぐさまこの炎天下のなかを、一番近いロード・キャンプ目指して走っていったそうだ。
バスに太いワイヤーをくくりつけ、ブルドーザーがそれを引っぱる。ジリッ、ジリッとバスは動きだす。そして、ついに脱出成功! その後も二度ほど泥のなかにめりこんだが、そのたびに乗客全員でバスを押した。
平原から山岳地帯にかわる。山越え、谷越えの連続。坂を下って川を越えると急な上り坂、バスは途中で止まってしまい、私たちはバスの後をせっせと押した。険しい峠を過ぎると川が道になる。進むにつれて道幅が広がった。川上から川下に向かっているのだ。これでは雨が降ったら通れるはずがない。