賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

秘湯めぐりの峠越え(33)高森編(熊本・宮崎)

 (『アウトライダー』1995年11月号)

地獄温泉の混浴露天風呂

「牧ノ戸峠編」の温泉めぐりを終えた翌朝は、7時半に長湯温泉を出発。

 梅雨の最中にもかかわらず、朝から上天気。四ッ口峠を越えて竹田に出、岡城址を見てまわる。本丸跡に立ち、九重連山の山々をながめた。

 竹田からはR57を走り、大分県から熊本県に入る。

 阿蘇の外輪山を越え、一宮を通り、午前10時、JR豊肥線の立野駅に到着。そこで、一緒にバイクでオーストラリアを走った錦戸陽子さんと落ち合う。

 前夜、長湯温泉から電話を入れたのだ。

 さらに、錦戸さんのバイク仲間のヤマハDT200WRに乗る小笠原隆一さんと、ホンダXLR125Rに乗る小林良彰さんもやってくる。

 みんなで近くの喫茶店「とちのき」に行き、コーヒーを飲みながら、バイク談義に花を咲かせた。

 小笠原さんは熊本市内で「小笠原写真館」という写真館をやっている。休みというと、日帰りで九州の林道を走っている。小林さんは大学生で、すっかりバイクのおもしろさにはまりこんでしまった。これから2人で小国郷周辺の林道を走りにいくのだという。

 錦戸陽子さんは素敵な肥後美人。熊本市内の病院に勤務する看護婦さん。彼女からは、“肥後モッコス”で知られる肥後の男について聞く。よくいえば芯が通っていて、意思強固なのだが、悪くいえばいこじな頑固男ということになるらしい。肥後の男たちよ、錦戸さんにそっぽを向かれないように、もっと頭をやわらかくしてガンバレよ!

 セローに乗ってきた錦戸さんは、ぼくの阿蘇の温泉めぐりにつき合ってくれるというのだが、小笠原さんと小林さんも、最初の温泉には同行してくれた。

 第1湯目は栃木温泉。喫茶店「とちのき」のすぐ近くにある「荒牧旅館」(入浴料400円)の湯に入る。大浴場の湯につかりながら、目の前の、阿蘇外輪山をながめる気分は最高だ。湯から上がると、「荒牧旅館」の前で、全員で記念撮影。そのあと、小笠原さんと小林さんは、林道を走りに小国へと向かっていった。

 第2湯目は栃木原温泉。「いろは館」(入浴料500円)の湯に入ったが、ここで食事をすると入浴料が300円になるというので、昼食に高菜定食を注文した。これが、大正解。高菜飯、団子汁、馬刺し、芥子蓮根と、熊本の郷土料理をひととおり食べられる、うれしくなるような定食。それを錦戸さんの説明を聞きながら食べるので、よけいに味わい深いものになった。

 第3湯目は湯ノ谷温泉。「阿蘇観光ホテル」の奥にある露天風呂(入浴料200円)に入る。青空を見上げながら、気分よく湯につかれる露天風呂だった。

 これら阿蘇の3湯の温泉に入ったところで、有料の阿蘇登山道路を登っていく。

 その途中では、米塚の前でバイクを止め、ヒーヒーハーハー息を切らして米塚を登る。日本各地の山を登っている錦戸さんは、息も乱さず、平気な顔をしている。

 米塚の頂上からの眺望は抜群。やわらかな牧草の緑につつまれた阿蘇を一望する。阿蘇カルデラ内の町や村がよく見える。阿蘇外輪山の向こうには、たなびく雲の上に、九重の山々がつらなっている。

 阿蘇山上のドライブインで小休止。コーヒーを飲みながら、あれこれと話しているうちに、阿蘇山上空はあっというまに黒雲に覆われる。もう1杯、おかわりと、コーヒーを飲んでいるうちに、ザーッと雨が降り出す。雷をともなった土砂降りの雨だ。

 なんともラッキーな雨。この雨のおかげで、錦戸さんと一緒に、阿蘇の名湯、地獄温泉に泊まることになった。

 阿蘇中腹の一軒宿「清風荘」に着くと、まずは湯に入る。

 湯から上がると、イロリ焼きの夕食だ。スズメやウズラ、シシ肉、カモ肉などを串刺しにして、イロリの炭火で焼き、阿蘇の地酒の冷酒を飲みながら食べる。酔うほどに、錦戸さんとの話がはずんだ。

 ゆっくりと時間をかけた食事のあとは、酔いざましにプラプラと外を歩く。

 嵐のような雨は上がり、雲の切れ間からは、月が顔をのぞかせている。そのあと混浴の露天風呂「すずめの湯」に入りにいく。灰を溶かしたような湯の色なので、女性の入浴客も多い。温めの湯なので長湯もできる。

 錦戸さんとは寄り添うようにして、露天風呂の消灯時間の12時になるまで入っていた。

 肥後美人と一緒の露天風呂…。一生の幸運を使いきったかのような至福の時だった。

 翌朝は、5時、起床。朝風呂に入り、6時、出発。

 阿蘇外輪山の俵山峠まで錦戸さんと一緒に走り、そこで熊本市内へと下っていく彼女と別れた。

「カソリさん、私、ここからの阿蘇の眺めが一番好きなの」

 と、錦戸さんがいうほどの、俵山峠からの阿蘇の眺めだった。

 気をとりなおし、R57に出、熊本へ。熊本城の下にDRを止め、そこを出発点にして日向に向かう。

 もう一度、地獄温泉に戻り「清風荘」(入浴料400円)の露天風呂に入る。つづいて垂玉温泉「山口旅館」(入浴料600円)の露天風呂に入る。さらに久木野温泉(入浴料300円)、阿蘇下田温泉(入浴料300円)、阿蘇白水温泉(入浴料400円)、高森温泉(入浴料400円)と、阿蘇の温泉に入りまくり、阿蘇外輪山の高森峠を越えた。

 熊本県から宮崎県に入り、天岩戸温泉(入浴料400円)、日之影温泉(入浴料300円)と立ち寄り、日向へ。マリンエキスプレスの19時発川崎行きフェリー「フェニックスエキスプレス」にスズキDR250Rともども乗り込み、九州に別れを告げるのだった。